00268_ケーススタディ_「戦費」をケチるな_DNA鑑定に見る、有事における「平時の金銭感覚」の致命的欠陥

「無駄なお金は使いたくない」。 

平時の家計管理において、この感覚は美徳です。 

しかし、ひとたび紛争という
「有事」
に突入した際、この節約精神が命取りになることがあります。 

本記事では、離婚におけるDNA鑑定の是非を題材に、情報を得るためのコストを惜しむ
「平時の感覚」
がいかに戦略を誤らせるか、そして勝つための
「戦費」
の投入の仕方について解説します。

<事例/質問>

先生、離婚協議中の妻との間にいる子供(3歳)について、深刻な疑念を抱いています。 

「本当に僕の子なのだろうか・・・」

妻の不貞が発覚してからの離婚話ですので、時期を考えると可能性は否定できません。 

そこで、白黒はっきりさせるためにDNA鑑定を行いたいと考えています。

実は、簡易的な
「私的鑑定キット」
を購入し、手元に届きました。

鑑定キット代金はすでに支払い済みで、別途鑑定料を支払ったうえで検査する流れです。

明日にも検査を出そうかと思っています。 

ところで、聞いたところによると、私的鑑定の結果というのは、裁判では証拠としては弱いらしく、結局は裁判所の手続きで
「法的鑑定」
をやり直すことになるらしい、と。

どうせ後でやり直すのであれば、今からしようと思う私的鑑定代(数万円)が無駄になります。 

細かいことをいえば、鑑定キット代金もですが・・・。

ここは少し時間を稼いで、裁判所での
「法的鑑定」
を申し立てて、その結果を待つべきでしょうか? 

 二度手間とお金の無駄を防ぎたいのです。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

結論から申し上げます。 

「四の五の言わずに、今すぐ手元のキットで検査をしましょう」

あなたのその迷いは、スーパーのチラシを見て
「卵はあっちの店の方が10円安いから」
と自転車を走らせるのと同レベルの判断です。 

平和な日常ならそれでも結構。

しかし、あなたは今、人生を賭けた
「戦争」
の最中にいるのです。

ここには、紛争解決における決定的な
「2つの勘違い」
があります。

1 「情報(インテリジェンス)」と「証拠(エビデンス)」は別物
まず、あなたは 「私的鑑定」 と 「法的鑑定」 を、同じ目的の手段だと勘違いしています。

• 私的鑑定: 
あなた自身が「真実」を知り、「戦うか、降りるか」を決断するための「情報(インテリジェンス)」です
• 法的鑑定: 
裁判官という第三者に事実を認めさせるための「証拠(エビデンス)」です

今、あなたに必要なのは、
「裁判所に提出する紙切れ」
ではありません。 

「あの子は俺の子ではない」
という確信を得て、 
「ならば、養育費は1円も払わない。徹底抗戦だ」 
と腹を括るのか、 
「俺の子だった。疑ってすまない。条件闘争に切り替えよう」 
と方針転換するのか、指揮官としての
「決断」
の根拠です。

この決断が1日遅れれば、その分だけ無駄な弁護士費用や婚姻費用(生活費)が垂れ流され、数万円の検査代など一瞬で消し飛びます。 

クイックベースの鑑定結果を先行入手し、あなたの脳内にある
「迷い」
を断ち切ることこそが、最大のコスト削減です。

2 「平時の金銭感覚」が戦争を負けに導く

次に、コストに対する考え方です。 

「二度手間になるから勿体ない」 
「無駄ガネを使いたくない」

はっきり申し上げますが、有事において、その 
「平時の金銭感覚(節約マインド)」 
は捨ててください。

裁判になれば、相手方は十中八九、鑑定結果を争ってきます。 

その際は、改めて厳格な鑑定になりますので、あなたが今ケチろうがケチるまいが、二度手間になることはほぼ間違いありません。

しかし、先に
「黒(自分の子ではない)」
という結果(情報)を握っていれば、相手に対して、 
「俺はもう結果を知っている。無駄な抵抗はやめて認めろ。さもなくば、法廷で恥をさらすことになるぞ」 
と、強烈なプレッシャー(心理戦)をかけることができます。 

これによって、相手が折れれば、裁判費用も時間も大幅に節約できるのです。

結論

情報への投資を惜しんではいけません。 

たかだか数万円の検査費用を
「勿体ない」
と躊躇している間に、戦況は悪化します。

歴史を見ても、ビジネスを見ても、 
「戦争で負けるのは、常に、戦費のない人間か、戦費をケチった人間です」。

勝つためには、必要なタイミングで、必要なリソース(カネ)を投下する。 

それが、紛争という泥沼から最短で抜け出すための唯一の道です。

※本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00267_ケーススタディ_「外野の叫び」か「城内への侵入」か?_組織を変えたいときに知っておくべき“壁”の厚さと“黒船”の必要性

「あの組織のやり方は間違っている。私が乗り込んで変えてやる!」 
正義感に燃える人ほど、こう息巻きます。 

しかし、他人の家の家具の配置を勝手に変えることができないように、外部から組織のガバナンスに介入することは、法的に極めて高いハードルがあります。 

本記事では、組織改革における
「勝手にできること(野党活動)」

「同意がないとできないこと(与党入り)」
の決定的な違いと、強固な城門をこじ開けるための唯一の鍵である
「外部からの強制の契機(スキャンダル)」
について解説します。

<事例/質問>

先生、地元の巨大医療・介護グループ(仮称:社会福祉法人・丸樹会)の運営体制について、義憤に駆られています。

同法人が運営する介護施設では、入所者の転倒事故や誤嚥事故が相次いでおり、安全管理体制が極めて杜撰です。 

私は地元の有力者や有志を集めて、同法人に対し、安全管理の抜本的改革を迫りたいと考えています。

具体的には、 
1 我々有志で監視NPOを立ち上げ、事故の検証や啓発活動を行う
2 さらに踏み込んで、我々の代表者を同法人の「理事」や「評議員」として送り込み、内部から組織を改革する 
3 問題のある施設をグループから切り離させる

といったことを要求し、実行させたいのです。 

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

その熱意は立派ですが、法的な
「重力」
を無視して空を飛ぼうとしています。

まず、頭の中を整理しましょう。 

世の中の
「アクション」
には、大きく分けて2種類しかありません。

1 「壁打ちテニス」(相手の意向に関係なく、勝手にできること) 
2 「ミックスダブルス」(相手の同意がなければ、絶対にできないこと)

ご相談のケースを、この2つに仕分けしてみましょう。

1 「外野で叫ぶ」のは自由(壁打ちテニス)

まず、 
「NPO法人を立ち上げ、安全管理のずさんさを検証したり、啓発を行う」 
というプラン。 これは、カテゴリー1です。

これは可能です。 

極端な話、丸樹会の目の前に事務所を構えて、 
「お前らは間違っている!」 
と叫び続けることは、表現の自由の範囲内であれば、誰にも止められません。

しかし、相手(丸樹会)からすれば、 
「そちら様が、そちら様のお金と労力で、ウチとは無関係の法人を作って、何を喚こうが、それはそちら様の勝手です(痛くも痒くもありません)」 
という話です。 

これは、あくまで
「外野からのヤジ」
に過ぎず、試合に参加しているわけではありません。

2 「城内への侵入」は拒絶される(ミックスダブルス)

次に、 
「我々を理事として招き入れろ」
 「施設を切り離せ」 
というプラン。 

これは、カテゴリー2です。

これは、 
「あなたの家のリビングの模様替えをしたいから、私に合鍵をよこせ」 
と言っているのと同じです。 

相手にとっては、 
「組織の根本(人事権・経営権)」 
に関わる問題であり、カネで済む話ではありません。

結論から言えば、 
「平時において、相手がこれに同意することは10000%あり得ません」

経営陣にとって、あなたのような 
「正論を吐く、小うるさい外部の人間」 
など、最も招き入れたくない異物です。 

玄関先で塩をまかれて終わりです。

3 城門が開くのは「城が燃えているとき」だけ

では、絶対に不可能か? 

いいえ、歴史上、堅牢な城門が開く例外的な瞬間があります。 

それは、 
「外部からの強制の契機(黒船)」 
が働いたときだけです。

過去の事例を思い出してください。 

かつて、雪印乳業が食中毒事件を起こした際、マスコミや世論から袋叩きに遭いました。 

あるいは、漢字検定協会で不祥事があった際、文部科学省が乗り出し、当時の理事親子を追い出しました。

これらは、 
「法的手段」
だけで動いたのではありません。

 「マスコミ」
「世論」
「監督官庁」
という、抗いようのない
「暴力的なまでの外圧」 
によって、城が炎上し、 
「うるさい外部の人間(消費者団体や弁護士)を入れて鎮火してもらう以外に、生き残る道がない」 
と観念したからこそ、門が開いたのです。

結論

現状の整理は以下の通りです。

• 自分たちでNPOを作って騒ぐ 
→これは可能(ただし、相手は無視を決め込むでしょう)
• 運営や人事に口を出す(理事を送り込む) 
→絶望的。これは「組織の心臓」を明け渡す行為です。大炎上して焼き尽くされる寸前まで追い込まれない限り、彼らが首を縦に振ることはありません。

正義感だけで、他人の城は落とせません。 

どうしても内部に入りたければ、まずは
「外野」
で徹底的に火種を大きくし、世論という強風を吹かせて、相手を
「延焼」
させる覚悟が必要です。 

そこまでする気概(と性格の悪さ)はおありですか?

*本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00266_ケーススタディ_弁護士費用は高いか安いか?_「700万円の損失」を見過ごす経営者の“節約”という名の病

「弁護士に頼むと金がかかるから、自分たちで何とかしよう」

その節約精神は立派ですが、実はその判断が、会社に
「目に見えない巨額の請求書」
を回していることに気づいていますか? 

本記事では、長引くトラブルへの対応を題材に、弁護士費用という
「目に見えるコスト」
と、対応に追われる社員の人件費や逸失利益という
「目に見えないコスト(機会損失)」
を天秤にかけ、真に経済合理的な
「喧嘩の終わらせ方」
を解説します。

<事例/質問>

先生、判断に迷っております。

当社は、首都圏でファミリーレストランを展開しております。 

実は、8ヶ月前から、ある取引先(内装業者)と工事代金の精算(約200万円)を巡ってトラブルになっております。 

相手方の主張は理不尽なもので、支払う義務はないと考えていますが、連日のように電話やメールで執拗な請求が来ており、担当役員と総務部長がその対応に追われています。

もう限界なので、先生に依頼して黙らせたいのですが、着手金や成功報酬など弁護士費用を聞いて二の足を踏んでおります。 

今回の紛争額に対して割高ではないでしょうか? 

もう少し安く済ませる方法はないでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

御社は、すでに700万円をドブに捨てている、ということを認識していますか?

弁護士費用をケチって、あと数百万捨てるか、それとも着手金を払って出血を止めますか、というのが、今回のご相談の本質です。 

提示された
「弁護士費用」
の金額だけに目を奪われてはいけません。 

プロの視点から、御社が現在置かれている状況を
「因数分解」
し、3つの選択肢(松・竹・梅)を提示しましょう。

1 見えないコスト:「700万円の損失」と「幻の2店舗」

まず、現状認識です。 

この8ヶ月間、担当役員様と総務部長様は、この不毛なトラブル対応にどれだけの時間を割かれたでしょうか? 

ヒヤリングによれば、私の試算では、お二人8時間コスト、エネルギー、ストレスによる生産性低下を合わせると、優に
「1.5人月」分
は費やされていますね。 

役員クラスのコストですから、軽く見積もっても約700万円の損失でしょう。

さらに言えば、その時間とエネルギーを本業(新規出店やメニュー開発)に使っていれば、今頃
「あと2店舗」
は出店できていたかもしれませんね。 

その逸失利益まで考えれば、損失は1000万円を超えるでしょう。 

「弁護士費用が高い」
とおっしゃいますが、御社はすでにその10倍以上のコストを、知らず知らずのうちに
「対応コスト」
として支払っているのです。

2 解決のための「松・竹・梅」3つのプラン

現状の
「出血」
を止めるために、私が提供できるプランは以下の3つです。 
ご予算と、社長の
「腹の括り方」
に合わせてお選びください。

• プランC(梅):ゴーストライター作戦(コスト:低) 

社長名義で相手に送る回答書を、私が
「添削」
します。 
費用は顧問料の範囲内で結構です。 
ただし、矢面に立つのはあくまで
「社長(会社)」
です。
相手からの電話や怒鳴り込みに対応するのは、引き続き御社のスタッフです。 
今の
「ダラダラ出血状態」
が劇的に改善する可能性は低いでしょう。

• プランB(竹):案山子(かかし)作戦(コスト:中) 
「弁護士名義」
で、法的なスタンスを明確にした警告書(内容証明郵便)を一本打ちます。 
「これ以上ガタガタ言うなら、弁護士が出てくるぞ」
という牽制球です。
相手がこの
「案山子」
を見てビビって退散してくれれば、最もコスパが良い解決になります。 
ただし、相手が
「上等だ! やってやる!」
と逆上して交渉や訴訟に発展した場合、この費用は無駄になり、別途追加費用がかかります。

• プランA(松):ターミネーター作戦(コスト:高) 
私が正式に代理人となり、窓口をすべて一本化します。 
相手に対し、
「裁判も辞さない」
という強烈な書面を叩きつけ、完膚なきまでに叩き潰すか、あるいは一切の手出しをさせない状態に持ち込みます。 
御社への連絡はすべて遮断させますので、明日から社員の皆様は業務に専念できます。 
「金輪際、二度と関わりたくない」
なら、これ一択です。

3 経営判断の物差し

私が社長の立場なら、どう判断するか。

 「このトラブルが、経営上どのくらいの負荷(邪魔)になっているか」 
で決めます。

もし、相手が単なる
「うるさいハエ」
程度なら、プランB(案山子)で追い払ってみるのも手です。 

しかし、相手が
「業務を阻害するガン」
になっているなら、迷わずプランA(ターミネーター)で手術をして、患部を切除します。

結論

着手金は、単なる法的サービスの対価ではありません。 

「社長と社員が、明日から安眠し、本業に集中するための『自由と時間』を買うためのチケット代」 
です。

すでに700万円に相当するリソースを浪費した今、さらに傷口を広げるか、手切れ金を払って止血するか。 

それは法律論ではなく、高度な
「経営判断(損切り)」
の領域です。

著:畑中鐵丸

00265_ケーススタディ_「契約書が返ってこない」は“宣戦布告”である_担当者のミスを社長の土下座に変える「人質外交」の極意

「忙しくて契約書の返送を忘れていました」。 

現場担当者のこの軽い一言が、企業の命運を揺るがす
「地雷」
になることをご存知でしょうか? 

本記事では、専門家派遣における契約書未回収トラブルを題材に、契約書を軽んじることがいかに
「相手への侮辱」
となるか、そして相手がその
「非礼」
に対して
「人質(派遣した専門家)」
を使って反撃に出た際、経営トップがいかにしてその火を消し止めるべきか、その修羅場の作法を解説します。

<事例/質問>

先生、堪忍袋の緒が切れそうです。

当社(仮称:ベータ・セキュリティ・ソリューションズ)は、企業のサイバーセキュリティ対策を行う専門家を派遣する事業を行っております。 

このたび、中堅商社である
「ベータ商事(仮称)」
の社長から直々の強い要請があり、当社のエース級エンジニアであるX氏を、特急で派遣しました。

ところが、業務開始から1週間以上経っても、ベータ商事から契約書が返送されてきません。 

担当者のA氏に督促しても、 
「すみません、私のミスでして」 
「すぐにやります」 
と、のらりくらりと言い訳をするばかりで、一向にハンコが押された書類が届かないのです。

X氏はすでに現場で働いています。

契約書がない状態で働かせるのは、当社としては非常に不安ですし、何より、無理を言って派遣したX氏に対しても失礼です。 

また、このA氏という担当者は、電話で謝るだけで済ませようとしており、事の重大さを理解していないように見えます。

我々としては、ベータ商事の社長宛に、 
「これ以上ナメた態度をとるなら、X氏だけでなく、御社に派遣している他の専門家も全員引き揚げるぞ」 
という最後通牒(抗議文)を送りつけようと思います。 

少し過激でしょうか?

また、もし相手の社長から反応があった場合、どう手打ちにすべきでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

結論から申し上げます。 

「その抗議文は、即刻送りつけるべきです。そして、相手の社長が“裸足で”飛んでくるのを待ちましょう」

ご質問のケースは、単なる事務ミスではありません。 

ビジネスにおける 
「リスペクト(敬意)の欠如」 
という、最も感情を逆撫でするトラブルです。

ここには、2つの重要な教訓が含まれています。

1 契約書は「紙」ではなく「人質」である

まず、ベータ商事の担当者A氏は、契約書を
「ただの事務書類」
だと思っています。 
だから、
「忙しいから後でいいや」
「忘れてた、テヘペロ」
で済むと思っているのです。

しかし、プロフェッショナルを派遣する御社にとって、契約書は 
「大切な社員(X氏)を敵地に送り込むための命綱」 
です。 命綱もつけずに
「働け」
というのは、X氏を危険に晒す行為です。

ここで御社が取るべき戦術は、 
「人質外交」 
です。 

相手は、X氏のスキルを喉から手が出るほど欲しがっていたはずです。 

そして、すでにX氏は現場に入り込み、ベータ商事の業務にとって
「なくてはならない存在(人質)」
になっています。

ここで、 
「契約書という命綱をよこさないなら、人質(X氏や他の専門家)を全員撤収させる」 
と通告するのです。 

これは、相手の急所(ビジネスの継続性)を握り潰す、最強の交渉カードです。 

担当者レベルで話が通じないなら、社長をリングに引きずり出すのが正解です。

2 「火消し」はスピードと過剰なまでの低姿勢で

さて、ここからは、もしあなたが
「抗議文を受け取ったベータ商事の社長」
だった場合の視点です。 

もし、取引先から 
「お宅の担当者が契約書を返さないから、全員引き揚げるぞ」 
と激怒されたら、どうすべきか。

言い訳をしてはいけません。 

「担当者が病気で」
とか
「社内手続きが」
などと言った瞬間、ガソリンを注ぐことになります。

正解は、以下の
「3ステップ土下座」
です。

• ステップ1:秒速で反応する 
携帯電話だろうがメールだろうが、連絡を受けた瞬間に「私が悪うございました」と全面降伏します。
「今、確認しました」というリアリティが大事です。

• ステップ2:物理的解決を即座に行う 
「今すぐFAXしました」「原本は明日の朝イチで届くようにバイク便を手配しました」と、物理的に契約書を届けます。
これで「実害」を消します。

• ステップ3:身体を差し出す 
「今からお詫びに伺います」と、社長自らが敵地に乗り込む姿勢を見せます。

今回の事例にある社長の対応は、まさにこの満点回答です。 

「携帯が繋がらずメールにて失礼します」
と前置きしつつ、全面的に非を認め、FAXを送り、明日の原本到着を確約し、さらに
「今から行きます」
と申し出る。

ここまで
「過剰に」
やられてしまうと、怒り狂っていた側も、 
「ま、まあ、社長がそこまで言うなら・・・」 
と、拳を下ろさざるを得なくなります。

結論

ビジネスにおいて、ルーズな担当者は組織のガンです。 

しかし、そのガンが発見されたとき、トップがどう振る舞うかで、その会社の
「生存能力」
が決まります。

御社は、堂々と
「人質」
を盾に抗議してください。 

そして、もし相手の社長が
「今から行きます!」
と飛んできたら、その時は、 
「雨降って地固まる」 
として、改めて恩を売ってあげてください。 

それが、大人の喧嘩の作法というものです。

著:畑中鐵丸

00264_ケーススタディ_「奴隷契約」を「パートナー契約」に変える魔法の言葉_“協議の上”と“努力義務”があなたを救う

圧倒的な力を持つ大企業から提示された契約書。

「スケジュールは当社の指示に従え」
「経費は込み込みで」。 

これにそのままハンコを押すのは、自ら首輪をはめに行くようなものです。 

本記事では、契約書におけるたった一言の追加・修正が、いかにして
「隷属」

「対等」
に変え、
「赤字」

「黒字」
に変えるか、その交渉の急所と、プロが使う
「柔らかな抵抗」
のテクニックについて解説します。

<事例/質問>

先生、またまた無理難題が降ってきました。

私、フリーランスで専門的な技術解説や実演(デモンストレーション)を行っているNと申します。 

このたび、業界最大手の巨大流通グループであるゼット社(仮名)から、新商品のキャンペーン・アンバサダーとして、全国の店舗イベントに出演してほしいというオファーをいただきました。

天下のゼット社と仕事ができるのは光栄なのですが、送られてきた契約書(ドラフト)を見て愕然としました。

1 スケジュールの拘束 
「甲(ゼット社)が指定する日程・場所において、乙(私)は出演業務を行うものとする。乙はスケジュール調整に最大限協力する」
→これでは、私が他の仕事を入れていても、ゼット社の一声でキャンセルさせられそうです。

2 ギャラと経費 
「出演料は1回あたり10万円とし、これ以外の金銭的請求(交通費、宿泊費等を含む)はいっさいすることができない」 
→北海道や沖縄に行かされたら、交通費だけで赤字になりそうです。

3 広報活動 
「乙は、本キャンペーンの広報活動(SNS投稿、取材対応等)について、甲の指示に従い協力するものとする」
→タダ働きで宣伝マンまでやらされそうです。

相手は巨大企業です。

「文句があるなら他の人に頼むよ」
と言われそうで怖いです。 

この
「奴隷契約」
のような条項を、角を立てずに、しかしこちらの身を守れるように修正するには、どう切り返せばよいでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

Nさん、それは契約書ではありません。 

あなたがいうように
「奴隷奉公の誓約書」
ですね。

そのままハンコを押せば、Nさんはゼット社の都合のいい駒として全国をドサ回りさせられ、最悪の場合、 
「働けば働くほど貧乏になる(交通費倒れ)」 
という、資本主義のバグのような状態に陥ります。

相手が巨大企業であっても、恐れることはありません。 

彼らは
「ジャイアン」
のように振る舞っていますが、契約書という土俵の上では、対等な
「甲」

「乙」
です。

以下の3つの
「魔法の杖」
を使って、この召集令状を、ビジネス契約書に書き換えましょう。

1 「奴隷」から「人間」へ戻る魔法の言葉:「協議の上」

まず、最大の問題である
「スケジュールの拘束」
です。 

相手が一方的に決めて、こちらは最大限協力する(=断れない)。

これは主従関係です。

ここに、魔法の言葉を挿入します。

 「甲および乙の協議の上」 

この7文字を入れるだけで、世界が変わります。

「やむをえない事情のある場合は、この期間を、“甲および乙の協議の上”変更することができる」
 「作業日程は、“甲および乙の協議の上”定めるものとする」

こう書き換えることで、 
「お前、明日来い」 
という命令が、 
「明日、どうですか?」
「いや、明日は先約があるので来週で」 
という
「相談(交渉)」
に変わります。

Nさんの立場上、相手主導でのスケジュール調整が必要なのは事実でしょうが、少なくとも
「拒否権」

「調整権」
を確保しておくことが、人間としての尊厳を守る最低ラインです。

2 「赤字」を防ぐ防波堤:「実費は別」

次に、お金の問題です。 

「出演料10万円(交通費込み)」
というのは、近所の公民館でのイベントなら良いでしょう。 

しかし、全国展開のキャンペーンであれば、これは
「毒まんじゅう」
です。

もし、急遽
「明日は沖縄でイベントだ」
と言われたらどうしますか? 

往復の航空券と宿泊費で、10万円など一瞬で消し飛びます。 

Nさんは、タダ働きどころか、
「ゼット社のイベントにお金を払って出演させてもらう」
という、謎のスポンサーになってしまいます。

ここは、毅然とこう修正しましょう。 

「なお、甲は、乙に対し、別途、本件業務に要する交通費等の実費を支払うものとする」

もし相手が
「予算の都合で込み込みにしたい」
と言ってきたら、
 「では、交通費込みで妥当な額(例えば20万円)に増額してください」 
と返しましょう。 

「商品の値段(出演料)」

「送料(交通費)」
をごっちゃにしてはいけません。

3 できない約束はしない:「努める(努力義務)」への軟化

最後に、広報活動や追加の作業についてです。 

「協力するものとする」 
と書かれると、これは法的な
「義務」
になります。 

もし協力できなかったら、契約違反で損害賠償請求されかねません。

しかし、相手との力関係で、真っ向から
「嫌だ」
とは言いづらい。 

そんな時に使うのが、大人の逃げ道、 
「努める(つとめる)」 
です。

「~に応じるよう“努める”ものとする」

こう書き換えることで、これは
「努力義務」
になります。 

「頑張ります(でも、できなかったらごめんね)」 
という意味になり、法的な強制力は格段に落ちます。

結論

Nさん、契約交渉とは、喧嘩ではありません。

「長く良好な関係を続けるための、ルールのすり合わせ」
です。

「御社のお仕事に全力で貢献したいからこそ、無理が生じないように調整させてください」 
というスタンスで、 
「協議の上」
「実費は別」
「努める」 
この3点を修正案として投げ返しましょう。

それでも
「一字一句変えられない」
と言うような相手なら、その仕事は断った方が、Nさんの未来のためです。 

「名誉ある撤退」
もまた、プロフェッショナルの重要な決断です。

著:畑中鐵丸

00263_ケーススタディ_業務中の傷害事件、社員が暴行を受けた!_会社ができること・できないこと(労災OK慰謝料請求NG:非弁行為の落とし穴)

社員が業務中にトラブルに巻き込まれ、大怪我を負った。 

会社として全面的にバックアップしたいと考えるのは当然ですが、実はここに法的な落とし穴があります。

「労災の手続き(事務)」
は会社が代行できますが、
「加害者への慰謝料請求(喧嘩)」
を会社が代行すると、弁護士法違反(非弁行為)となるリスクがあるのです。 

本記事では、傷害事件を題材に、
「会社ができる支援」

「やってはいけない支援」
の境界線、そして顧問弁護士を
「社員個人の武器」
として活用する際の
「利益相反」
という地雷について解説します。

<事例/質問>

先生、大変なことが起きました。

当社の東京営業所の所長であるX(35歳)が、業務中に社用車を運転していたところ、通行人の男とトラブルになり、顔面を殴打されるという傷害事件が発生しました。

場所はスーパーの前で、駐車車両を避けようとしたところ、手押しの自転車で向かってきた50代の男に因縁をつけられ、口論の末に暴行を受けたようです。 

Xは救急搬送され、
「左眼窩底骨折」
という全治不明の大怪我を負いました。

手術も必要で、後遺症の恐れもあるとのことです。

会社としては、被害に遭ったXを全面的にバックアップしたいと考えています。

当然、労災申請は進めますが、X個人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料などを加害者に請求する件についても、会社が間に入って交渉してあげたいと考えています。

X本人にはそうした知識も経験もないからです。

つきましては、会社がXの代理として加害者と交渉しても問題ないでしょうか? 

また、それが難しい場合、先生の事務所でXの個人的な相談に乗っていただけないでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

それは災難でしたね。 

X所長のお身体と、御社の動揺、お察しいたします。

結論から申し上げます。 

「会社が加害者と交渉してはいけません。それは『非弁行為』という法律違反になります。その代わり、私が顧問料の範囲内で、X所長個人の代理人として徹底的にガードしましょう」

ご質問にある通り、ここには一般の方が誤解しやすい
「2つの戦場」

「超えてはいけない一線」
があります。 

状況を整理し、X所長を救済するプランを提示しましょう。

1 「労災申請」はOKだが、「慰謝料請求」はNG

まず、X所長の
「会社でやってよ」
という気持ちも、御社の
「やってあげたい」
という親心もわかります。 
以下の2つを明確に区別しなければなりません。

A:労災保険の申請(事務手続き)
これは「従業員の権利」に基づく申請ですが、会社には証明や手続きを手伝う「助力義務」があります。
したがって、会社(総務・人事)が主導して進めるべき「適法な事務」です。

B:加害者への損害賠償・慰謝料請求(喧嘩)
これは、「殴られて痛い思いをしたXさん個人」が、加害者に対して持つ権利です。
ここが重要なのですが、この「個人の喧嘩(交渉)」を、弁護士資格のない会社が本人に代わって行ってしまうと、「非弁行為(弁護士法72条違反)」という犯罪になってしまいます。

つまり、会社は
「労災(A)」
の手続きはできても、
「慰謝料請求(B)」
の代行は、法律上やってはいけないのです。

「やってあげない」
のではなく、
「やってあげたくても、やると犯罪になるからできない」
のです。

会社ができる福利厚生としては、
「会社が手出しできない『喧嘩』を代行してもらうために、プロ(顧問弁護士)をX所長個人のために無償(会社負担)で貸し出すこと」 があげられます。

2 法律よりも「眼」が大事:意外なコネクションの活用

さて、法律論の前に、大事なのはX所長の眼です。

眼窩底骨折となれば、顔の変形や視機能障害など、一生に関わる後遺症が残る可能性があります。

実は私、この分野の権威である某大学病院の眼科学教授と懇意にしております。 

もしX所長が高度な治療をご希望なら、私の紹介で、教授の診察を受けられるよう手配いたしましょう。 

わが法律事務所の場合、仕事は、裁判だけではありません。 

「困ったときに、最適な専門家(医者含む)につなぐコンシェルジュ」 
としての機能も、顧問料に含まれているとお考えください。

3 「対・加害者」においては、最強の用心棒を用意する

次に、加害者への対応です。 

相手に資力(お金)があるなら、民事上の損害賠償請求で徹底的に絞り上げます。 

しかし、こういう手合いは得てして
「無敵の人(お金がない人)」
であるケースも多い。

その場合は、以下のフルコースで攻め立てます。

• 刑事告訴: 警察を動かし、刑事罰を与えて社会的制裁を加える

• 各種給付金: 相手から取れないなら、労災保険はもちろん、国の「犯罪被害者給付金」など、あらゆるセーフティネットからお金を回収する

X所長が泣き寝入りすることのないよう、ありとあらゆる
「財布」
を探し出します。

4 「労災」であるがゆえの「利益相反」の境界線

ただし、法務担当者様、1つだけ
「絶対に越えてはいけない一線」 
があります。

それは、 
「会社とX所長がケンカになる場合」
 です。

今は
「会社とX所長 vs 加害者」
という構図で共闘しています。 

しかし、万が一、X所長が 
「会社が安全配慮義務を怠ったからこんな目に遭ったんだ! 会社も責任を取れ!」 
と言い出し、
「対・会社」
の構図になった場合(労災上乗せ請求など)。

その瞬間に、私はX所長の味方を辞めます。 

なぜなら、私はあくまで 
「御社(会社)」 
の顧問弁護士だからです。 

会社と利益が対立する相手(たとえ社員であっても)の代理人を務めることは、弁護士法上の 
「利益相反」 
となり、禁じ手となります。

ですから、 
「加害者と戦う分には、ウチの顧問弁護士が全力で味方する。ただし、労災などで会社と揉めるような話になったら、先生は会社の代理人だから、君の味方はできなくなる。その時は別の弁護士を紹介する」 
という点だけは、最初にX所長に釘を刺しておいてください。

結論

まずは治療優先。 

動けるようになったら、X所長を私の事務所によこしてください。 

あるいは、私の携帯番号を教えて、直接連絡させても構いません。

「会社は法的に『喧嘩の代行』はできない。その代わり、会社が雇っている『最強の用心棒』をお前のために用意した」 
と伝えて、彼を安心させてあげてください。

*本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00262_ケーススタディ_「忙しかった」は禁句_保全処分に見る、「ファッション弁護士」と「サムライ弁護士」の決定的な違い

「忙しい」
という言葉は、ビジネスマンにとって便利な免罪符になりがちです。 

しかし、こと
「権利の救済」
を預かる法務の現場、特に
「保全処分」
のような緊急案件において、その言葉は
「職務放棄」
と同義になります。 

本記事では、手続きの遅れに対する厳しい叱責を通じて、資格を単なる
「ファッション(飾り)」
と捉えるか、顧客を守る
「刀(武器)」
と捉えるか、プロフェッショナルとしての在り方を問います。

<事例/質問>

先生、現在進行中の
「仮処分(保全処分)」
の申立準備についてご報告とご相談です。

クライアントが、競合他社から特許権侵害の警告を受け、逆に相手方の営業妨害行為を止めるための仮処分を申し立てる件です。

当初、今週中に申立書を起案する予定でしたが、他の顧問先からの契約書チェックや、定例会議の準備などが重なり、正直なところ手が回っておりません。 

物理的に時間が取れないため、申立書のドラフト提出を
「来週いっぱい」
まで延期させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?

クライアントには
「慎重に検討している」
と伝えておけば、待ってもらえると思います。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

その考え方では、弁護士(あるいは法務のプロ)への道は、遥か彼方に霞んで見えません。

結論から言います。 

「保全処分の準備で一週間もかかっていたら、懲戒ものです」

あなたには、プロとしての
「時間感覚」

「使命感」
が決定的に欠落しています。 

その理由を、救急医療とサムライのアナロジーで説明しましょう。

1 「保全処分」は「救急救命室(ER)」である

まず、法律用語の理解が甘すぎます。 

「保全処分(仮処分)」
とは、通常の裁判(本訴)を待っていては、権利が回復不可能な損害を受ける恐れがある場合に行う、 
「超・緊急措置」 
です。

医療で言えば、 
「大動脈が切れて血が噴き出している患者」 
が運び込まれてきた状態です。

それに対して、あなたは 
「他の患者さんの風邪薬の処方(契約書チェック)で忙しいから、止血手術は来週に回します」 
と言っているのと同じです。 

患者(クライアント)は死にます(倒産するか、取り返しのつかない損害を被ります)。

「それだけ、顧客の権利侵害状態が放置されている」 
という事実の重みを、全く理解していません。

2 「忙しかった」は、大学生の言い訳

「忙しかった」? 

それがどうしましたか。

それは、サークルの飲み会の幹事を忘れた 
「大学生の言い訳」 
です。 

あるいは、宿題を忘れた小学生の言い訳です。

人の権利、財産、時には命を預かる 
「プロのサムライには許されない」
言葉です。

クライアントは、あなたの
「忙しさ」
にお金を払っているのではなく、
「危機の解決」
にお金を払っているのです。 

プロであれば、寝る間を惜しんででも、他の案件を調整してでも(あるいは他の弁護士に土下座して手伝ってもらってでも)、期限に間に合わせるのが当然です。

3 「ファッション」か「サムライ」か

こういう極限状態での対応にこそ、その人が何のために資格を取ったのか、その本性が現れます。

あなたは、 
「ファッションアイテムとしての弁護士バッジ」 
が欲しくて、司法試験を目指したのですか? 

「先生」
と呼ばれて、チヤホヤされたいだけのアクセサリーですか?

それとも、 
「正当な権利が侵害されて苦しんでいる方を、サムライとして『法』という刀を使って救済しよう」 
という、高邁な理想と志に燃えて、その資格を手にしたのですか?

もし後者(サムライ)なら、主君(クライアント)が斬られそうになっているときに、 
「刀を研ぐのに一週間待ってください」 
などと悠長なことは言わないはずです。 

錆びた刀でも、素手でも、今すぐ割って入るのがサムライです。

4 結論

甘ったれたことを言っていないで、 
「とにかく、週明け朝一で用意すること」 
です。

徹夜でも何でもして、死ぬ気で書き上げてください。 

それができないなら、バッジを外して、ファッションモデルにでも転職することをお勧めします。

著:畑中鐵丸

00261_ケーススタディ_「名目」という名の皮を捨て、「実利」という果実を喰らう_離婚条件闘争における“トータル・パッケージ”の魔術

交渉において、
「相場」


という壁にぶつかり、膠着状態に陥ることはありませんか? 

特に、離婚における養育費や、ビジネスにおける損害賠償など、公的な
「算定表」

「相場」
が存在する場合、正面突破は困難です。 

しかし、プロの交渉人は、数字の
「ラベル(名目)」
を巧みに貼り替えることで、相手を納得させつつ、トータルの実利を最大化します。 

本記事では、離婚協議の現場を舞台に、
「名目」
を捨てて
「実利」
を取る、トータル・パッケージ交渉術の極意を解説します。

<事例/質問>

先生、離婚協議の戦略についてご相談です。

私は現在、夫(会社経営者)との離婚協議を進めています。 

夫は離婚自体には同意していますが、金銭条件、特に
「養育費」
について激しく対立しています。

夫は、 
「裁判所の『養育費算定表』によれば、俺の年収なら月額〇万円が相場だ。それ以上は1円たりとも払わない」 
と、頑として譲りません。

しかし、夫の年収やこれまでの生活レベル、そして子供(私立に通っています)の教育費を考えると、算定表の金額では到底足りません。 

私が
「実情を見てほしい」
と訴えても、夫は
「基準通りにするのが公平だ」
の一点張りで、話が平行線です。

夫にはそれなりの資産(預金や不動産)がありますが、養育費の月額に固執するあまり、話が進みません。 

この
「算定表の壁」
を突破して、子供のために少しでも有利な条件を引き出すには、どうすればよいでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

交渉において、 
「堅牢な城門(算定表の基準)」 
を、素手で殴り続けても、拳が砕けるだけです。

ご主人のおっしゃる
「裁判所の基準(算定表)」
というのは、実務上、非常に強力なものです。 

裁判所に行けば、十中八九、その基準に近い数字で決着してしまいます。 

つまり、この土俵で
「月額を上げろ」
と戦うのは、 
「重力が支配する場所で、空を飛びたいと願う」 
ようなもので、極めて分が悪い戦いです。

しかし、嘆く必要はありません。 

交渉のプロフェッショナルから見れば、 
「月額(フロー)」 
で勝てないなら、 
「総額(ストック)」 
や 
「条件(ターム)」 
で勝てばいいだけの話です。

お金には色はついていませんし、 
「養育費」
という名前の1万円札も、 
「財産分与」
という名前の1万円札も、 価値は同じです。

視点を変えましょう。 

「名目」
という名の皮を相手に与え、
「実利」
という名の果実をこちらがいただくのです。

1 「全体としていくらもらうか」というトータル・パッケージ思考

まず、 
「月額いくらか」 
という一点突破の思考を捨ててください。 

考えるべきは、 
「離婚に伴う清算として、トータルでいくら財布に入れるか」 
です。

離婚にまつわるお金には、主に以下の3つのポケットがあります。

• A:養育費(月額・未来の分割払い)

• B:財産分与(一括・過去の清算)

• C:慰謝料(一括・精神的苦痛の対価)

ご主人は
「A(養育費)」
の基準にこだわっています。 

ならば、Aについては、 
「わかりました。あなたの言う通り、基準に従いましょう」 
と、負けたふりをして譲歩するのです。

その代わり、 
「その分、これまでの私の内助の功や、離婚による精神的苦痛の清算として、B(財産分与)やC(慰謝料)の色を付けてください」 
と、別のポケットから回収するのです。

ご主人としては、 
「自分が主張した基準(A)が通った」 
という満足感(メンツ)が得られます。 

こちらは、名目はどうあれ、 
「手元に入る現金が増える」 
という実利が得られます。 

2 「期間」と「特約」という隠れたレバレッジ

次に、金額だけでなく、
 「時間軸」 
を操作するテクニックです。

もし、月額の数字が動かせないなら、 
「支払う期間」 
を延ばせばいいのです。

例えば、通常は
「20歳まで」
のところを、 
「大学卒業(22歳)まで」 
とするだけで、支払総額は2年分(24ヶ月分)増えます。 

月額5万円なら、120万円の増額と同じ効果です。

また、 
「学校にまつわる費用(入学金や授業料)は別途負担する」 
という特約を入れるのも手です。 

これは、見かけ上の月額養育費は低く抑えつつ、実質的な負担をご主人にさせる、極めて合理的な 
「実利取り」 
の手法です。

「月々の支払いは安く済んだ」 
とご主人を安心させておきながら、将来発生する巨額のキャッシュアウト(学費)を約束させる。 

これは、まさに 
「朝三暮四」 
の故事を逆手に取った、賢い交渉術です。

3 「妥協」を「武器」に変える

この戦術の肝は、
「私はここで妥協しましたよ」 
というポーズを最大限に見せつけることです。

「養育費については、あなたの言う基準を受け入れました。私は泣く泣く譲歩しました。だから、財産分与のこの部分については、私の要望を飲んでください」
と迫るのです。 

交渉において、 
「一方的な勝利」 
は恨みを買いますが、 
「痛み分け(に見える取引)」 
は合意を生みます。

4 結論

「養育費」
というラベルにこだわる必要はありません。 

相手がこだわる
「基準」
は守らせてあげて、その分、 
「財産分与」
 や
 「解決金」 
といった、基準が曖昧で調整しやすい項目で、ガッツリと実利を回収してください。

相手には
 「勝ったつもり」 
になってもらい、こちらは 
「実質的な果実」 
を懐に入れる。 

これが、大人の交渉における、最も洗練された 
「勝利の方程式」 
です。

※本記事は、実際の法律相談や交渉実務を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。 
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00260_ケーススタディ_「敗戦の領収書」という名のラストオーダー_裁判費用の請求書が届いたときの“正しい諦め方”

裁判に負けた後、相手から
「訴訟費用」
を請求されると、
「相手の弁護士費用まで払わされるのか?」
と青ざめる経営者がいます。 

しかし、日本の裁判制度において、その心配は(原則として)杞憂です。 

本記事では、敗訴後に届く
「訴訟費用額確定の申立書」
の正体と、それが実は
「恐るるに足らない少額の経費」
に過ぎない理由を解説し、スマートな敗戦処理の作法を伝授します。

<事例/質問>

先生、先日判決が出た「敗訴案件」について、嫌な書類が届きました。

当社は、元提携先との契約トラブルで訴えられ、残念ながら全面敗訴しました。 

判決に従い、損害賠償金はすでに支払ったのですが、本日、相手方代理人より 
「訴訟費用額確定の申立書」 
なる書類が裁判所に提出され、その副本が当社に送られてきました。

「訴訟費用は被告(当社)の負担とする」
という判決文言は見ていましたが、これはまさか、 
「相手方が雇った高い弁護士費用まで、全部こちらが払わなければならない」 
ということなのでしょうか?

負け戦のあとに、さらに法外な請求が来るのかと思うと、夜も眠れません。 

これは支払わなければならないのでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

社長、ご安心ください。 

その請求書は、 
「高級フレンチのフルコース代金(弁護士費用)」 
の請求ではありません。 

単なる 
「ファミレスのドリンクバー代(裁判所の利用実費)」 
の請求に過ぎません。

結論から申し上げます。 

「額はたかが知れています。四の五の言わず、さっさと支払って、悪夢を終わらせましょう」

その理由を、日本の裁判制度というゲームの
「課金システム」
に従って、紐解いていきましょう。

1 「訴訟費用」とは「場所代」に過ぎない

まず、言葉の響きに怯えてはいけません。 

法律用語でいう
「訴訟費用」
とは、 
「裁判所という国の機関の利用料」 
のことを指します。

具体的には、
• 裁判所に納めた印紙代(手数料)
• 切手代(郵券)
• 証人の旅費・日当 
といった、
「実費」
の合計です。

要するに、 
「国営のケンカ闘技場(裁判所)を使うのにかかった入場料と電気代」 
のようなものです。 

負けた側が、この
「場所代」
を負担するのは、敗者のマナー(判決による義務)としてあきらめましょう。

2 日本の裁判は「負けても地獄ではない」

社長が一番恐れているのは、 
「相手の弁護士費用」 
でしょう。 

しかし、ここに日本の法制度の
「慈悲」
があります。

日本の法律制度においては、原則として
「弁護士費用」
は負けた側に負担させることはありません(ただし、例外はあります)。

これは世界的に見ても特徴的なルールです(アメリカなどとは異なります)。 

相手がどんなに高名で高額な弁護士を雇っていようが、何千万円払っていようが、それは相手の勝手です。 

「贅沢な武器(高い弁護士)」
の代金まで、敗者が負担する必要はないのです。

ですから、今回請求されているのは、 
「実際は印紙代プラスαのみ」 
であり、企業取引の規模からすれば、おそらく 
「額としては妥当なもの(微々たるもの)」 
に収まっているはずです。

3 「敗戦処理」の美学

この申立書が来たということは、 
「もう戦争は終わりましたよ。あとは清掃費だけ払ってください」 
という合図です。

これに対して、 
「1円でも払いたくない!」 
と抵抗するのは、見苦しいだけでなく、時間の無駄です。 

計算式が決まっている以上、 
「裁判所によってもこの請求は認められる」
 のは確実であり、抵抗しても 
「支払いに応じるほかない」 
のが現実です。

4 結論

この請求書は、長い戦いの 
「手切れ金」 
としては、格安です。

これを支払うことで、この不愉快な事件との縁が、法律的にも、経済的にも、完全に切れます。 

さっさと振り込んで、明日の商売のことを考えましょう。 

それが、経営者としての、最も生産的な 
「損切り」 
です。

著:畑中鐵丸

00259_ケーススタディ_「正義」は金で買えるか?_「100万円の被害」を「200万円かけて」取り戻す“法的喧嘩”の不都合な真実

「悪いことをされたのだから、裁判で訴えれば、損害を取り戻せるはずだ」 
そう信じて疑わない経営者や法務担当者は少なくありません。 

しかし、日本の民事裁判の実態は、被害者にとって
「残酷なまでに冷淡」
なシステムであることがあります。 

本記事では、少額の損害賠償請求を巡る攻防を通じて、
「裁判」

「投資」
として捉えることの危険性と、プロの弁護士が考える
「喧嘩の作法」
について解説します。

<事例/質問>

先生、至急、訴訟の準備をお願いしたい案件があります。

当社(仮称:株式会社コスミック・ソリューションズ)は、元取引先の代表者(個人)に対して、業務委託費の前払い金など約100万円の損害賠償を求めています。 

相手は、のらりくらりと支払いを逃れており、誠意のかけらも見られません。

詐欺を念頭に警察に相談しましたが、
「民事不介入」
を盾に動いてくれず、刑事告訴は厳しい状況です。 

刑事事件化をチラつかせて示談で回収するプランが崩れた今、民事訴訟で白黒はっきりさせたいと考えています。

ついては、以下の点について教えてください。

1 民事訴訟を起こした場合の勝算と、回収の見込み。 
2 正直、100万円を取り戻すのに高額な弁護士費用はかけられません。できるだけ安く(成功報酬のみなど)お願いできないでしょうか? 
3 損害賠償請求の相場は、実損の100万円程度という認識でよろしいでしょうか?

相手の不誠実な態度が許せません。法的な正義の鉄槌を下してください。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

社長、お怒りはごもっともです。 

しかし、冷水を浴びせるようで恐縮ですが、プロの法律家として、残酷なまでの
「現実」
をお伝えしなければなりません。

結論から申し上げます。 

「投資対効果(ROI)を考えるなら、泣き寝入りをして、その時間とエネルギーで株や金(ゴールド)でも買っていた方が、よほど儲かります」

その理由を、日本の司法制度というゲームのルールブックに従って、紐解いていきましょう。

1 日本の民事裁判は「加害者の楽園」?

まず、民事訴訟の見通しですが、勝訴判決(「被告は原告に100万円支払え」という紙切れ)を取ること自体は可能でしょう。 

しかし、判決文は「打ち出の小槌」ではありません。

相手に支払う意思がなく、めぼしい財産もなければ、ただの
「記念品」
です。 

強制執行をかけるにも、相手の財産(隠し預金など)はこちらで見つけ出さなければなりません。

さらに言えば、日本の民事裁判システムは、 
「被害者に冷淡、加害者に有利な、『やり得』容認型」 
の構造になっています。

相手がのらりくらりと逃げ回れば、裁判は長期化し、こちらの精神的・時間的コストばかりが嵩んでいきます。 

「正義の鉄槌」
どころか、被害者が
「疲弊という名の二次被害」
を受けるのがオチなのです。

2 「100万円の回収」は「投資」としては大失敗

社長は
「費用を安く」
とおっしゃいますが、法的事件というプロジェクトは、一般の事業投資とは異なります。 

「投資対効果」
という概念で割り切れるものではありません。

100万円を取り戻すために、弁護士費用を払い、社員の時間を使い、社長の精神的リソースを割く。 

経済的に見れば、どう計算しても
「赤字プロジェクト」
です。

もし、この訴訟を
「損害をカバーするための金策」
と考えているなら、即刻中止すべきです。 

「泣き寝入り」
は、敗北ではなく、 
「これ以上の損失(弁護士費用と時間の浪費)を防ぐための、賢明な損切り(ロスカット)」 
という高度な経営判断になり得るのです。

3 それでも戦うなら「道楽」としてやれ

では、この訴訟に意味はないのか? 

いいえ、1つだけあります。

それは、 
「多少の面倒やコストは覚悟でも、法に照らして、きちんとケジメをつけたい」 
という、社長の
「意地」

「プライド」、
あるいは
「教育的指導」
という名の 
「明確な非経済的動機」 
がある場合です。

「カネの問題じゃない。あいつを許さないことが目的なんだ」 
と腹を括れるなら、喜んでお手伝いしましょう。 

ただし、それは
「投資」
ではなく、社長の心を晴らすための高級な
「道楽(消費活動)」
です。

4 「安かろう悪かろう」は法務でも同じ

最後に、費用についてです。 

「難易度やリスクとバランスが取れた費用」
をご負担いただけないなら、信頼関係の構築は不可能です。

「費用面で劇的に廉価なサービス」
をお求めであれば、他の弁護士や法テラスなどを探していただくのも1つの選択です。 

しかし、 
「劇的な廉価となれば、却ってクオリティ上の不安が発生する」
 のが、プロフェッショナル・サービスの常識です。

「100円の寿司に、銀座のQ兵衛のネタとサービスを求める」 ようなことは、社長の美学に反するのではないでしょうか。

結論

今回の100万円は、
「高い勉強代」
として損金処理し、本業に邁進されるのが、最も経済合理性の高い選択です。 

それでもなお、
「カネをドブに捨ててでも、相手に一撃加えたい」
という情熱がおありなら、正規のフィーをお支払いいただいた上で、徹底的にやりましょう。

どちらの道を選ばれるか、それは経営者である社長の
「生き様」
の選択です。

著:畑中鐵丸