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内部通報窓口の設置運営(公益通報者保護法対策)でお悩みの企業様へ

  当法人では、公益通報者保護法の対応、同法に準拠した内部通報制度の構築・運営の支援、さらに社外の内部通報窓口のご提供を行っております。

 内部通報制度運用上の実務課題については、畑中鐵丸弁護士が著書「戦略的コンプライアンス経営」で取り上げております。

 また、公益通報者保護法に関しては、畑中鐵丸弁護士の下記論考をご高覧下さい。

 取扱実績等につきましては、当法人お問い合わせページより直接お問い合わせください。

公益通報者保護法とその対策について

弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中鐵丸(弁護士法人畑中鐵丸法律事務所代表)

 

1. 法の趣旨・目的

 先般、公益通報者保護法(以下、「本法」といいます)が成立・公布され(2004年6月18日公布)、2005年に施行されております。

 本法は、「公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めるもの」とされています。 昨今増大する企業不祥事のほとんどが企業内部の関係者による告発を契機とするものが多かったため、「公益目的による内部告発」を社会として評価し、保護しようとする動きがありました。他方、内部告発された企業側としては、企業秩序や企業機密等の企業内部情報を管理するという独自の利益を有しており、企業は、懲戒権に基づき内部告発者に制裁を加える合理的根拠を保持しています。そこで、この両法益のバランスを図り、ルール化したのが本法です。

 

2. 産業界の状況

 本法については、誤解が多く、不必要に恐慌を来し会社内部の組織や制度を無用に変えようとする企業がある反面、全くこの法に無知で講じるべき措置を講じない企業があったりと、施行を前に産業界は混乱を極めております。

 そこで、以下、本法の意義や機能を簡単に解説するとともに、企業として取るべき対策について簡単に触れておきます。

 

3. 公益通報者保護法の意義・機能

 まず、本法は、なんでもかんでも密告を奨励する、という性質のものではありません。 企業にも機密や内部情報を適切に保持すべき正当な利益があります。本法は、特定の主義主張に基づき、あるいは背景や詳細な経緯を知らず、「自分が現認した事実を、自分の主義思想にあてはめると公益に反するから、これを直ちに公表する」などという行為を無制限に適法化するものでありません。

 本法第二条で「通報対象事実」や「公益通報」の定義が非常に限定的になされております。これを逆にみれば、定義にあたらないような通報行為は、公益通報者保護法では保護されない(つまり、本法律の定義にあたらないような通報を行った者は、企業内部の情報を漫然と漏洩したことを理由に、厳しく懲戒してもかまわない)ということを意味します。これには法解釈理論上の理由があります。本法は、企業秩序維持のため企業が保持している懲戒権の行使という原則的・本質的な法的利益に対する重大な制限ないし例外であり、「例外法規は制限して解釈すべし」という法解釈上の通則からは、「定義にあたらないかあたるかどうか不明なものは、原則に戻って保護しない」という取り扱いが理論上導かれるのです。すなわち「法に書かれざること一切は、法が保護していないという意味であり、企業としてはかかる状況において懲戒権を失わない」ということがいえるのです。

 さらに、本法第三条をみると明らかなとおり、本法は、不正を発見した場合、通報者はいきなり外部に話を持ち込むのではなく、まず、企業内部の通報制度を用いて自浄に協力することを求めています。そして、企業内部ではなく監督官庁に通報するような行為は、不正事実の存在が相当な理由を以て確認できる場合に限られています。さらに、マスコミ等の第三者への公表は、「内部通報制度が存在しない場合や、内部通報制度が機能しない場合、さらに企業の自浄に期待することができない場合」など極めて限定された場合にしか認められていません

 このように、本法を精読すれば、「本法が、企業の懲戒権に十全に配慮し、公益通報との適切なバランスをとろうとしている」様子がおわかりになるかと思います。

 

4. 公益通報者保護法施行前に企業として取るべき対策

 以上の理解を前提に、最後に公益通報者保護法施行前に企業として取るべき対策を述べておきます。

 企業としては、「公益通報者保護法を恣意的に解釈した、野放図な企業機密や企業内部情報の公表による企業価値の低下」という事態に陥らないためには、

 

1) 公益通報者保護法を正しく理解し、通報がどのような場合に正当化されるのか(逆にいえばどのような通報行為は懲戒したり抑止したりしてかまわないのか)をきちんと認識すること

 

2) 内部通報制度をいまだ整備していないところは直ちに整備すること

 

3) 内部通報制度は、見よう見まねや素人考えで運用しないこと。同制度は、公益通報者保護法に適合させる形で運用し(法3条3号ニの解釈により、内部通報制度に基づき書面で通報があった場合、会社は20日以内にフィードバックを行う運用が必要)、通報者が「内部通報により企業内部の自浄を図る」というプロセスを経ず「いきなり企業内部の不正を外部に公表する」という行為に走らせないようすること

 

4) 従業員に対しては、「公益通報者保護法による保護を受けるには厳格な要件が必要である。法的知識のないまま無思慮かつ安易な外部公表することは、身の破滅を招く。外部公表の前に、まず会社のヘルプライン(内部通報制度)を用いるべし」との教育を行うこと が必要です。

 

 なお、企業によってはこの内部通報制度運営のための人員を割くことに消極的なところもあろうかと思われますが、他方で当該制度の整備運用は焦眉の急を要します。