00214_親権や監護権をめぐる争い_調査官調査で家族の支援をどう伝える?――“関わり”を誤解なく届けるために

家庭裁判所で、親権や監護権をめぐる調停や審判が行われると、状況に応じて、調査官調査が実施されることがあります。

たとえば、親同士の主張が大きく食い違っていたり、
「子どもの心情や家庭環境の実態を把握する必要がある」
と裁判所が判断した場合などに実施されます。

一方、当事者間に大きな争いがなく、資料や面談だけで判断が可能と裁判所が判断した場合などは、調査官調査が行われないまま調停がまとまったり、審判が出されることもあります。

さて、調査官調査に話を戻します。

調査では、親としての適性だけでなく、その人を支える身近な支援者――とくに祖父母の存在や関わり方が、重要なポイントとして見られます。

実際、祖父母が日常的にどのように子どもと関わっているか、また、その支援がどれくらい継続的に期待できるかという点は、調査官の関心が向きやすいところです。

ある相談では、依頼者の両親が子どもたちの近くに住み、日々の生活を支えているというケースがありました。

このような状況では、調査官調査に祖父母も同席してもらうことで、子育ての環境が整っていることを直接伝えることができます。

支援がきちんと機能していることが、調査官に具体的に伝わるという点でも、有効な方法です。

ただし、祖父母に調査への協力をお願いするには、慎重な検討が必要です。

家庭裁判所の調査官とのやりとりは、祖父母にとっては非日常の場面であり、強い緊張や不安を伴うこともあります。

また、善意で話したつもりの言葉が、調査官には違う意味に受け取られてしまうこともあります。

たとえば、ある祖母のケースでは、調査官に
「お孫さんとどのように関わっていますか」
と聞かれて、笑顔でこう話されました。

「息子は忙しいですからねえ。私が代わりに、学校の送り迎えや夕飯の用意をしています。もう、私がいないと生活が回らないんですよ」
この言葉を聞いた調査官は、
「父親が子育ての中心ではなく、祖母が実質的に監護しているのではないか」
と受け取りました。

実際には、父親である依頼者が毎日帰宅後に子どもと過ごし、教育やしつけも担っていました。

しかし、祖母の発言だけを聞くと、父親の監護力が弱く、祖母に頼り切った家庭のように映ってしまったのです。

同じような誤解は、他の親族の発言からも起こり得ます。

たとえば、母親の弟、つまり子どもにとっての叔父にあたる方が、調査官との面談でこう話したことがありました。
「最近は、夜遅くまでスマホをいじってるみたいですよ」
そのつもりはなかったのですが、調査官には、
「家庭内のルールが緩く、生活リズムが乱れている」
と受け取られてしまったのです。

また、ある祖父が、
「あの子は、もうちょっと叱ったほうがいいんじゃないか」
と口にした場面では、調査官から
「虐待が疑われる可能性もある」
との評価が下されたことがありました。

祖父本人としては、しつけの大切さを伝えたかっただけでしたが、発言の受け止め方ひとつで、大きく意味が変わってしまうことがあります。

どちらも、子どもを大切に思うからこその発言です。

悪気があるわけでも、間違ったことを言っているわけでもありません。

しかし、その一言が、特に、親同士の主張が大きく食い違っている場合には、調査官の家庭環境に対する評価に大きく影響してしまうことがある、という現実があります。

このような認識のズレは、当事者とその人を支える身近な支援者間の事前の打ち合わせや準備が不十分であればあるほど、起こりやすくなります。

また、調査当日の段取りや移動手段、時間の制約など、実務的な負担も考慮しなければなりません。

祖父母の年齢や健康状態によっては、長時間の対応が身体的にも大きな負担になることがあります。

一方で、調査官調査への同席を見送れば、祖父母への負担やリスクは避けることができます。

しかしその場合、調査官から
「支援が限定的なのではないか」
「そもそも、本当に祖父母の支援があるのか」
と、見られてしまうおそれもあります。

だからこそ、それをどう補っていくかが、大切なポイントになります。

そこで有効なのが、祖父母による支援の実態を具体的に整理し、わかりやすい言葉で説明できるように準備し、それを資料や文章としてカタチにしておくことです。

さらに、写真や記録を活用し、面談の中で丁寧に説明することで、同席しなくても、家庭としての支援体制をきちんと伝えることができます。

そして、もうひとつ大事な視点は
「調停や審判の手続きの中で、その内容をどのように伝えるか」
ということです。

ただ情報を並べるのではなく、調査官や裁判官が求めているのは、
「その家族がどんなふうに子どもを育てているのか」
が、伝わるカタチになっているかどうかです。

どこまで伝えるか、どう伝えるか。

ほんの少しの工夫が、相手の受け取り方を大きく変えることがあります。

その家庭に合ったやり方で、わかりやすく、そして誤解のないように伝えていくこと。

結局のところ、その積み重ねしか、調査官や裁判官には届かないのです。

著:畑中鐵丸

00213_ケーススタディ_「増員要求」にどう向き合うか ―欠員見直しを考えるとき、経営者が忘れてはいけない視点

<事例/質問>

先生、少しご相談させてください。

「経理の担当者が1人退職する。だから人を補充してほしい」
と、経理部長が言ってきました。

理由を聞くと、
「人がいないと今の業務量では回らない」
「この機会に効率化も考えたいが、やはり時間がかかる。だから今は人を入れてほしい」
と。

正直、私はモヤモヤしています。

「今回は欠員補充だから仕方ない」
と割り切るべきなのか。

でも、それを認めた瞬間、
「仕事が多ければ人を増やせばいい」
という考え方が、この組織に染みついてしまうのではないか――そんな気がしてならないのです。

だから、簡単に首を縦には振れません。

この場面で、経営者としてどう判断するのが正しいのか。

畑中先生なら、どう考えますか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

まず、大前提として伝えたいのは、
「忙しいから人を増やしてほしい」
という話は、仕事の本質からズレている、ということです。

忙しい理由の多くは、
「考えずに手を動かしているから」
です。

想像してみてください。

昼のピーク時に
「もう無理だ、店員を増やしてくれます!」
と騒いでいるラーメン屋があります。

でも、本当に繁盛している店は違います。

一番忙しい時間帯こそ、
「どうすれば今の人数で回せるか」
を真剣に考え、工夫を重ねています。

その積み重ねが、店の力になっているんです。

今日の話も、本質はまったく同じ。

「苦しいから助けてほしい」
「考えたくない」
「現状をそのまま認めてほしい」
・・・要するに、
「泣き言」
なんですよね。

したがって、社長としてやるべきことは1つです。

業務をすべて洗い出させ、効率化の可能性を検討させた結果「どうしても人員が必要だ」というのであれば、プロコン含めてその内容を報告させることです。

「苦しいから人が欲しい」
という気持ちは、もちろん理解できます。

でも、それを理由に人を増やすのは、経営としては間違っています。

増員を求めるなら、
「なぜ今の体制では回らないのか」
「どこに業務が集中しているのか」
「そもそもその業務は本当に必要なのか」
ここまで考え抜いた結果、論理的に説明できる状態になって初めて、議論のテーブルに乗せるべきでしょう。

そして、この考え方はチーム全体にも徹底させるべきです。

「苦しいから人を増やす」
そんな甘えは、今ここで断ち切らなければなりません。

増員は、最後の最後の手段です。

まずは
「業務の棚卸し」
そして
「効率化の提案」
そこから始めることです。

そのプロセスを経て、どうしても必要だというなら、その時、会社の未来にとってプラスかどうかを基準に、経営として判断すればいいのです。

著:畑中鐵丸

00212_脅しのカラクリと、それを無力化する方法

世の中には、脅しを武器にしてカネを巻き上げようとする連中がいます。

反社会的勢力も犯罪グループも、さらには労働基準監督署でさえも、その根っこは同じです。

「脅してカネを取る」
という目的に違いはありません。

脅しが成り立つのは、相手が怖がるからです。

彼らが一番得意とするのは、相手が恐れをなしてすぐに従うこと。

しかし、この手法には決定的な弱点があります。

それは、証拠を残されると一気に勢いを失うことです。

脅す側にとって、録音や記録を取られるのは最悪です。

なぜなら、
「言った言わない」
の曖昧な状況だからこそ脅しは成立するもの。

証拠が残れば、それは単なる不正行為の記録になり、もう力づくで押し切ることはできません。

だからこそ、録音や記録を取られた瞬間、彼らは急におとなしくなるのです。

とはいえ、脅しが通じないからといって、すぐに諦めるわけではありません。

ここで重要なのは、彼らが最も困るのは、反発されることではなく、時間をかけてグズグズされることだという点です。

たとえば、あなたが突然、高額な請求を受けたとしましょう。

脅す側は、
「いますぐ払え」
「お前のためにならないぞ」
と畳みかけてきます。

ここで
「わかりました」
と言ってしまえば、彼らの思うツボ。

しかし、
「ちょっと考えます」
「確認してから返事します」
と時間を引き延ばした途端、彼らはイライラし始めます。

なぜなら、彼らにとって最も大切なのは
「早くカネを取ること」
だからです。

時間が経てば経つほど、(彼らから見ての)相手の警戒心は強まり、弁護士や第三者に相談する余裕も生まれます。

さらに、時間が長引けば、
「この案件にこれ以上時間をかけてもメリットがない」
と判断し、彼らは手を引くことすらあります。

これは、いわば
「持久戦」。

彼らはスピード勝負で成果を上げるビジネスモデルで動いているため、じわじわと時間をかけられると、収益性がどんどん悪化していくのです。

反社会的勢力でも、犯罪グループでも、労働基準監督署でも、脅しのビジネスにとって最大の弱点は
「時間をかけさせられる」
ことなのです。

つまり、彼らに対抗する最も効果的な方法は、
「急がない」
こと。

「すぐに答えを出さない」
「考える時間を確保する」
「第三者に相談する」

こうした対応をすることで、相手の戦術は崩れていきます。

焦って行動するのではなく、じっくりと構えることです。

それこそが、脅しに対する最強の防御策なのです。

著:畑中鐵丸

00211_成果を出す人の共通点:「ゴールデザイン」の極意 – 成功するプロジェクトの条件とは?

何かを成し遂げるには、単なる行動だけでなく、しっかりとした
「ゴールデザイン」
が必要です。

ただ目標を決めるだけでは不十分で、それをどう実現し、どのように影響を長く残すのか――この戦略が極めて重要になります。

今回は、ゴール設定の際に押さえておくべきポイントについてお話しします。

1 長く記憶に残る戦略を

まず、大切なのは
「人々の記憶に長く残る仕組みを作ること」
です。

単発の活動では、どれだけ大きなインパクトを残したとしても、時間とともに忘れ去られてしまいます。

継続的に注目を集めるためには、広く、強く、組織的に、系統立った活動が欠かせません。

2 「他人を利用する」とはどういうことか?

大きな目標を達成するには、一人の力では限界があります。

しかし、ただ
「誰かに頼る」
のではなく、
「他人を利用する」
という視点が必要です。

ここで言う
「利用する」
とは、相手にメリットを提供することで、こちらの目的にも協力してもらうということ。

例えば、政治家には
「票」

「知名度」、
マスコミには
「視聴率」

「話題性」、
学者には
「研究成果」、
弁護士には
「仕事」、
行政には
「権限拡大」

「制度成果」
など、それぞれが求めるものがあります。

これらを理解し、自然な形で
「相手が得をする」
構造を作ることが大切です。

その際、
「タカる他人」
ではなく、
「正当なメリットを得て合理的に動く他人」
を選ぶことが重要です。

ここを間違えると、余計なトラブルに巻きこまれたり、活動自体が停滞してしまうこともあります。

3 運動家とは距離を置く

また、活動自体を目的にしている人や、特定のイデオロギーに染まった人(いわゆる「運動屋」)とは一線を画すべきです。

彼らは現実的な成果よりも、自分たちの主義主張を優先しがちだからです。

成功の女神は、リアリストにしか微笑みません。

4 世間の支持を得る方法

世間の支持を得るためには、
「自分の本心をストレートに伝えない」
という戦略も必要です。

人々が何となく感じているモヤモヤした不満や疑問を、言葉や形にして示すことが重要です。

ここで大切なのは、
「自分の言いたいことを言う」
のではなく、
「世間が共感しやすい表現を使う」
こと。

つまり、ミエル化・カタチ化・言語化が求められます。

5 目的のためには手段を選ばない

成功する人は、みな
「人たらし」
です。

時には誤解を利用し、ウソも方便として使います。

目的は手段に優先する――これは、現実の世界で成果を出すための鉄則です。

また、大きなプロジェクトを進めると、必ず足を引っ張る人が現れます。

しかも、それは外部の敵ではなく、内部の
「味方の顔をした人間」
だったりします。

大きな組織を立ち上げるには、内部抗争を乗り越える覚悟が必要です。

考えの違う人間を排除する決断ができないなら、最初から組織作りに手を出さない方がいいでしょう。

6 成功のカギは、明確な未来像と参加者のメリット

成功確率を高めるためには、
「未来の形を明確にし、具体的なメリットを提示すること」
が不可欠です。

ゴールがぼんやりしていたり、関わる人にメリットがなかったりすると、いずれ誰もついてこなくなります。

通常、この境地に至るには10年、20年という歳月がかかります。

その間にエネルギーを使い果たし、取り組み自体が忘れられ、結局は何も残らないというのが一般的な流れです。

しかし、驚くべきスピードで、正しい環境認識ができる人もいます。

政治家、マスコミ、協力団体、学者、弁護士――必要な要素が、驚くべきスピードで揃う場合もあります。

とはいえ、正しい認識があり、条件が揃っていても、最後に必要なのはリーダーの覇気と努力です。

どれだけ準備が整っていても、最終的に動かすのは
「人」
です。

そして、その人が持つ
「情熱」

「行動力」
こそが、成功を決定づけます。

だからこそ、最後に問われるのは
「そのリーダーに覚悟と行動力があるか?」
なのです。

著:畑中鐵丸

00210_事業責任者から「社長(仮)」は育つのか?社内育成 vs. 外部登用、その最適解

会社を経営する上で、
「人材の育成」

「組織の運営」
は避けて通れない課題です。

特に、事業責任者となる人材を社内で育成するか、それとも外部の優秀な人材に任せるかは、経営方針によって大きく変わります。

ある会社では、
「時間がかかっても、すべての事業責任者は社内で育成する」
という方針を掲げ、たとえ未熟でも、まずは「社長(仮)」としてコックピットに座らせ、操縦桿を握らせるという決断をしました。

しかし、その結果、会社がどのような状況に陥るのか、現実的な懸念もあります。

1 事業責任者が担うべき業務とは?

事業責任者として最低限必要な業務は、大きく分けて2つあります。

(1)ルーティン・オペレーション

・ヒト・モノ・カネ・ノウハウの管理
・売上予算や行動計画の策定・承認
・各スタッフへの行動目標設定と進捗フォロー
・組織の監視・監督・助言
・異常事態の発見と対処

(2)事業の高度化・効率化、新規取組の推進

・事業環境の認識と分析
・未来のビジョン設計(ゴールデザイン)
・資源調達(予算・人員・内製or外注)の検討
・費用対効果の検証と意思決定
・実施と試行錯誤を繰り返し、最適解を見つける
・結果に応じた評価・報酬調整

こうした業務を、
「社長(仮)」
に求めることになります。

しかし、それがまともに機能していない場合、
「時間がかかる」
どころか、
「いつまで経っても形にならない」
という事態に陥るでしょう。

2 放牧状態の事業ユニット

各事業ユニットが放牧状態であるとするならば、事業責任者としての役割を果たせる人材が育っているとは言い難い状況です。

例えば、次のようなタイプの人材が事業責任者になった場合、本当に会社を運営できるのかという問題があります。

・タイプA:「何もしてこなかった」+「新しい体制を妨害する元部長」
・タイプB:「他所で食い詰めて、仕方なくこの業界、この会社に流れ着いた中途社員」
・タイプC:「知識・経験不足で、処遇にも不満を持ちながらも、受け身で従い続ける若手・新卒」

彼らに事業を任せた場合、本当に大丈夫なのでしょうか?

そもそも、
(1)事業責任者としての仕事を独力で遂行できるような人材が、社内から誕生するのか?
(2)万が一、そんな能力を獲得した人材が出てきたとして、その人が会社に忠誠を誓うのか? 悪さをしたり、出て行ったりしないか?
といった懸念が生じます。

3 「社長(仮)」の監視と管理

「社長(仮)」
にコックピットを任せるという方針は、育成の観点からは正しいのかもしれません。

しかし、それだけでは会社が正しく運営される保証にはなりません。

もし、事業責任者が業務を適切に遂行できなかった場合、後部座席から激しく指摘を入れなければなりません。

「お前、運転下手だな。何やってんだ!  ほら、はよ行け! ……バカ、そこは止まれよ!  てめえ、免許持ってんのか?  何ワイパー動かしてんだ!  ウィンカーは逆! ほら、エンストだ!  うわ、酔いそう。ガシャン! 何?  ブツケた? もうダメだな。代行呼ぶよ!」

このように、適切な監視と管理がなければ、事業責任者が好き勝手に暴走し、会社全体が崩壊するリスクもあるのです。

4 育成か即戦力か?

「社内でじっくり育てる」
という方針は、決して間違いではありません。

しかし、育てる環境が整っておらず、適切な管理体制もないままに責任だけを与えると、組織は機能しなくなります。

したがって、
「社長(仮)」
に任せるなら、
育成」+「監視
をセットにする必要があります。

もしくは、
「『育成』にこだわらず、最初から優秀な人材を外部から確保する」
という選択肢も考えるべきでしょう。

どちらが正解なのかは、会社の文化や経営理念によります。

しかし、どの道を選ぶにしても、
「放任しすぎるリスク」
だけは避けるべきです。

著:畑中鐵丸

00209_ケーススタディ_仕事のオファー、断るべきか_断る前に知っておくべき「業務受託のステップ」

<事例/質問>

私はWEB専門のコンサルタントです。

自分の会社を経営しながら、依頼があるとWEBチームの活性化をサポートしています。

そんな私に、ある会社から業務管理の話が持ちかけられました。

その会社は既存の業務を縮小し、新しい事業の立ち上げを計画中です。

社内の多くの従業員は新事業に回され、既存業務は少数のメンバーで担当することになりました。

私は、経験上、こういう話には
「何か大変なことが隠れている」
ことが多いと、感じています。

だからといって、面談を断るということは、仕事そのものを断ることにもつながり、今後の関係性に影響が出るかもしれません。

何と言って、断ればいいでしょう?

<鐵丸先生の回答/コメント/アドバイス/指南>

「断ること」
を前提に相談されていますが、本当に断るべき案件なのでしょうか?

多くの人は、相談者と同じような状況になると、
「面談=業務の承継」
と考えてしまいがちです。

しかし、この考え方は
「業務の全体像を掴む前に、承継することが前提になっている」
状態であり、無理な決断を強いられることになります。

つまり、
「現状を知る前に、責任を負わされるかもしれない」
と身構えてしまうのです。

しかし、面談は
「業務を承継する前提」
ではなく、まずは
「状況を把握するための機会」
だと考えるべきです。

業務受託にはステップがある

「時は金なり」
という言葉のとおり、多くの人は時間を最適化しようとして、プロセスの統合や省略をしがちです。

しかし、常にそれが正しいとは限りません。

特に業務受託においては、正しい手順を踏むことが重要です。

「アセスメント → 関与条件設計 → 条件交渉 → 受託 → 実施」

この流れを飛ばしてしまうと、後から
「こんなはずではなかった」
と後悔することになりかねません。

業務の詳細を調査しないまま
「面談、即、業務承継」
として進めると、途中で問題が発生したり、委託者・受託者両者の認識のズレが生じたりする原因になります。

たとえば、レストランで
「おまかせコース」
を頼むとき、メニューを確認せずに
「何でも食べられるから大丈夫」
と思ったら、苦手な食材が出てきて困ることがありますよね。

事前に
「どんな料理が出ますか?」
と聞いたら、避けられるはずです。

「やりたくないから、面談もしない」は本末転倒

したがって、
「この業務はやりたくないから、そもそも面談もしない」
という考え方は、適切な判断とは言えません。

なぜなら、業務を正しく評価しない限り、本当にその業務が
「やるべきではないもの」
なのか、
「判断して価値があるもの」
なのかをすることができないからです。

新しい仕事の話が来たとき、
「とりあえず詳細を聞いてみよう」
と思うのと、
「興味がないから話すら聞かない」
と決めるのでは、選択肢の広がりが全く違います。

これは、旅行の計画を立てるときにも言えることです。

「この国には興味がないから、ガイドブックも見ない」
と決めつけてしまうのは、もったいない話です。

実際に調べてみると、予想以上に魅力的な場所があったり、自分の興味に合った観光スポットがあるかもしれません。

仕事の受託も同じで、
「面談=受託確定」
ではなく、
「情報を集めて判断するための機会」
と考えるとよいでしょう。

まとめ

面談は業務を即座に引き継ぐためのものではなく、業務の状況を把握するためのプロセスです。

「やりたくないから面談もしない」
という考えでは、そもそも正しい判断はできません。

まずは情報を集め、正しい判断ができるようにすることが、結果的に正しい選択につながるのです。

著:畑中鐵丸

00208_社長報告会は経営の本質を問う場_5分間の勝負、そのルールと覚悟

企業経営に関して、意思決定のスピードと質は生命線です。

特に、経営統括本部が主催する社長報告会は、各事業ユニットの管理代表者、子会社の社長が経営状況を報告し、必要な議論を行う場です。

ここでは、従来の報告会とは一線を画した、よりシャープなルールが適用されます。

この場は、単なる報告の場ではありません。

各子会社社長の毎月5分間の報告発表持ち時間は、株主総会さながら、経営の本質を問う姿勢で挑まなければなりません。

この場では何が求められるのでしょうか。
社​​長報告会のルールを整理します。

1 数字は見ればわかる。余計な説明はいらない

財務状況や売上の数字を長々と説明するのは時間の無駄です。

数字は報告資料を見れば明白であり、問題は、その
「背景」

「対策」
にあります。

「前年比〇〇%の成長です!」
などの自慢は不要です。

問題があるなら、それをどう解決するかを語るべきです。

 重要なのは「未達」「異常」「課題」

報告の目的は、成功談を語ることではなく、経営リスクを把握し、迅速に対策を打つことです。

予算未達、例外的なトラブル、異常なデータ——こうしたポイントを明確にし、
「事実解明→原因解析→対策抽出→承認が必要な事項の討議」
をコンパクトに行うことが求められます。

3 選択肢の提案は最低3つ

討議を上程する際には、必ず選択肢と
「プロ/コン分析(メリット・デメリット)」
を添えて提出します。

選択肢は、以下の3種類を最低限用意することが必須です。

(1)純理論的選択肢(ロジックベースで最適解と考えられる案)
(2)業界慣行に基づく選択肢(競合や市場の動向を考慮した案)
(3)社長好みの選択肢(大胆で型破りな案)

この3つの視点を抑えることで、経営本部がより冷静な判断を下せるようになります。

4 まともな報告ができないなら潔く謝れ

報告に必要な準備が間に合わなかった場合、無駄な埋め合わせ資料で時間を浪費することは厳禁です。

その場合は、
「私はバカで無能できちんとした上程できるものができませんでした。すみません」
と素直に謝罪し、次の報告者に譲ること。

経営本部にとって、未整理の話を聞くことほど無駄な時間はありません。

5 戦場立つ覚悟を持て

社長報告会は、経営者としての真価が問われる場です。

中途半端な報告や曖昧な結論は通用せず、鋭い眼光を持つ経営本部の番犬たちに食いちぎられることになります。

ここで求められるのは、次のような姿勢です。

(1)言い訳をしない
(2)できなかった理由ではなく、どうすればできるのかを語る
(3)甘えを捨てる
(4)環境や他人のせいは、一切通用しない
(5)自己弁護をしない
(6)評価されるのは、実績と次の打ち手のみ

この場に立つ報告者は、事実と解決策を武器に、徹底的な準備をして挑まなければなりません。

覚悟を持つ者だけが、経営の砦を守ることができるのです。

著:畑中鐵丸

00207_既存事業と両立しながら新規事業を軌道に乗せる 外部支援の活かし方とプロとの連携ポイント 

新規事業を進める中で、専門的な知識やスキルを持つ外部のプロフェッショナルに協力を依頼したいと考える場面は多いでしょう。

しかし、社内の従業員に指示を出すのとは違い、外部のプロとスムーズに協力するには、適切な関係の築き方や依頼の仕方が重要です。

では、どのようなポイントに気をつければよいのでしょうか?

1 「とりあえず助けて!」はNG! 依頼内容を明確にしよう

外部のプロに仕事を依頼するとき、あいまいな状態のまま「とにかく手伝ってほしい」とお願いするのは避けるべきです。

プロフェッショナルは、ボランティアではなく、独立した事業者です。

そのため、何を、どこまで、どんな条件で依頼するのかを明確にしなければ、適切なサポートを受けることはできません。

依頼前に整理すべきポイント

(1)仕事内容を具体的に伝える
×「○○の業務をサポートしてほしい」
○「△△のシステム構築を担当し、2カ月以内に○○を完成させてほしい」

(2)目的と期待する成果を明確にする
×「とりあえずやってみる」
○「売上向上のために、この業務改善を実施する」

(3)予算と報酬を明確にする
×「いくらでも払う」「できるだけ安く」
○「○○円の範囲内で依頼したい」

事前にこれらを整理することで、依頼のミスを防ぎ、プロフェッショナルとの信頼関係を築きやすくなります。

2 「丸投げ」は危険! 適切な役割分担を考える

とにかくプロに全部任せようと丸投げするのは、事業の成功を遠ざける原因になります。

たとえば、新規事業の立ち上げがうまくいかず、プロにすべてを引き継いでもらおうと考えてしまうケース。

しかし、内部の意思決定の流れを理解していないプロに、いきなりすべての業務を引き継ぐのは現実的ではありません。

どこまで任せるべきかを決めるポイント

(1)社内でしか対応できない業務と、プロの専門スキルが必要な業務を区別する

(2)プロにしかできない業務に集中してもらう
たとえば、システム設計やマーケティング戦略など、専門知識が必要な業務を任せる

(3)報告・連携のルールを決める
進捗をどのタイミングで報告するか、どのように連携を取るかを明確にしておく

適切な役割分担をすることで、プロの能力を最大限に活かしながら、事業全体を円滑に進めることができます。

3 WIN/WINの関係を意識して依頼する

外部のプロは、困っている会社を助けるために存在しているわけではありません。

彼らも、自分のビジネスとして仕事を請け負っています。

そのため、単に助けてほしいというスタンスではなく、お互いにメリットのある関係(WIN/WIN)を意識することが重要です。

WIN/WINの関係を築くために大切なこと

(1)プロの立場を尊重する
「会社のために手伝ってくれて当然」ではなく、「専門スキルを活かしてもらう」という意識を持つ

(2)報酬は適正に設定する
「できるだけ安くしてほしい」ではなく、「成果に見合った報酬を支払う」という考え方が大切

(3)長期的な関係を意識する
1回の仕事だけでなく、今後も協力しやすい関係を築く

この意識を持つことで、プロのモチベーションが上がり、より質の高い成果を得ることができます。

4 依頼の流れを整理し、スムーズに進める

外部のプロに依頼するときは、最初の段階で流れを明確にしておくことが、スムーズな進行のカギとなります。

依頼の流れの一例

(1)目的を明確にする:「このプロジェクトで達成したい目標は何か?」
(2)業務範囲を確定する:「どこまでを依頼し、どこまでを自社で対応するのか?」
(3)報酬や条件を調整する:「成果報酬なのか? 時間単位の契約なのか?」
(4)契約書を交わす:トラブルを防ぐために、業務内容や報酬を文書化する
(5)定期的に進捗を確認する:報告のタイミングや方法を決める

5 まとめ:外部のプロに依頼するときのポイント

(1)依頼内容を明確にする
(2)「丸投げ」せず、適切な役割分担を考える
(3)プロの立場を尊重し、WIN/WINの関係を意識する
(4)依頼の流れを整理し、スムーズな進行を心がける

適切な依頼の仕方をすれば、事業の成功を大きく後押ししてくれる貴重な存在となります。
これらのポイントを意識して、外部のプロと良好な関係を築いていきましょう!

著:畑中鐵丸

00206_既存事業と両立しながら新規事業を軌道に乗せる方法

既存事業を進めながら新規事業を立ち上げる場合、管理者が両方を兼任することはよくあります。

しかし、成功させるには、日々の業務をスムーズに回す仕組みを作り、成長戦略をしっかり考え、必要に応じて外部のプロと連携することが重要です。

1 日々の業務を円滑に進める体制を整える

新規事業では、ルーティン業務を適切に管理し、迅速な意思決定ができる環境を作ることが成功の鍵となります。

そのためには、業務の流れを明確にし、情報共有の仕組みを整えることが大切です。

例えば、以下のようなポイントを意識すると良いでしょう。

(1)業務フローを明確にする
「誰が・何を・いつ報告するのか?」を明確にし、業務の遅延や混乱を防ぐ。

(2)例外的な問題は専任者を通じて報告する
トラブルが発生した際に適切な判断ができるよう、全体を把握する担当者を決める。

(3)デイリーレポートを活用する
進捗状況を「ミエル化」し、経営陣と定期的に情報共有する。

こうしたルールを作ることで、予期せぬトラブルにも迅速に対応できる体制が整います。

2 成長戦略をしっかり考える

事業を軌道に乗せるには、業務を回すだけでなく、売上を伸ばすための戦略を持つことが不可欠です。そのために、以下の3つのポイントを明確にしましょう。

(1)事業の目標を決める
「○年後に売上●●円を達成する」といったビジョンを設定し、関係者全員が同じ方向を向ける。

(2)収益モデルを決める
利益を確保するのか、成果報酬型にするのか、ハイブリッド型にするのかを検討する。

(3)選択肢を比較し、最適な方法を選ぶ
現状を分析し、専門家の意見を取り入れながら複数の手法を比較検討する。

目標と戦略を明確にすることで、場当たり的な意思決定を避け、計画的に事業を成長させることができます。

3 外部のプロフェッショナルを活用する

新規事業を進める中で
「専門スキルが足りない」
「もっと効率的に進めたい」
と感じることがあります。

こうした場合、外部のプロと協力するのは有効な選択肢ですが、その際には適切な依頼方法や関係構築が重要になります。

4 まとめ:新規事業を成功させるためのポイント

(1)日々の業務の流れを整え、スムーズに回す仕組みを作る
(2)売上向上のための具体的な戦略を考え、目標を明確にする
(3)外部のプロに依頼する際は、条件や役割分担をしっかり整理する

新規事業の成功には、社内の運営体制をしっかり整えつつ、外部のリソースを効果的に活用することが欠かせません。

ぜひ、これらのポイントを意識して事業をスムーズに成長させていきましょう!

著:畑中鐵丸

00205_「お金の問題ではない」—弁護士が仕事を断る理由—「誠意」と「敬意」がビジネスを決める

弁護士という仕事をしていると、さまざまな人と関わることになります。

法律相談だけでなく、ビジネスの戦略に関するアドバイスや契約書のレビューなど、多岐にわたる依頼が寄せられます。

しかし、すべての案件を引き受けられるわけではありません。

なぜなら、
「どの案件を優先すべきか」
は、単なる時間管理の問題ではなく、
「誰と付き合うべきか」
の問題だからです。

今回は、実例をもとに、
「弁護士が仕事を断る理由」

「お金の本当の意味」
について考えてみたいと思います。

最初は「費用後回し」でも付き合ったが・・・

ある案件で、私は
「基本的な立て付けがしっかりしている」
という前提のもと、
「法的局面に関するアドバイス」
に限定して、依頼を受けました。

切迫ということだったので、費用についても、まずは後回しにして、関わることにしたのです。

しかし、途中で前提が大きく揺らぎ、単なる法的アドバイスでは済まなくなりました。

つまり、依頼者が当初想定していた
「できあがった設計図をもとに、法的な補強をする」
という立場ではなく、
「そもそもの設計図を一緒に作り直す」
ところから関与する必要が出てきたのです。

ここまで範囲が変わると、必要な時間もスキルも増えます。

当然、それに見合う適切なコストをいただかなければ、こちらもエンゲージし続けることはできません。

「報・連・相」なし、「見込み違い」の総括なし

問題だったのは、
「報・連・相」
が一切なかったことです。

前回の打ち合わせの仕切りが想定と大幅に違っていたにもかかわらず、その点についての説明はありません。

「見込み違いでした」
「想定が狂いました」
といった総括もなく、ただ次の依頼が飛んできました。

私が休日に呼び出され、費用を頂戴する前提で作成した法的文書が、前提変更により無駄になったこともありました。

しかし、それに対するお詫びもなく、費用精算の申し出もありません。

せめて
「申し訳ありません」
「お手数をおかけしました」
という一言があれば、こちらの気持ちも違ったかもしれません。

突然のレビュー依頼、しかも「急いで」

そんな状況のなか、急に、また、
「レビューをお願いします。急ぎです」
と連絡が来ました。

前提が崩れたまま整理されていない状態で、また同じようなことを繰り返すつもりなのか・・・と思ったのが正直なところです。

それでも、着手し、同時に費用提案をしました。

すると、返ってきたのは
「値引きできませんか?」
という回答です。

もはや、この案件に関わるべき理由が見つかりませんでした。

「お金」は人間性を映す指標

最終的には、依頼者から
「申し訳ありませんでした」
という謝罪とともに、費用の請求をお願いする旨の連絡がありました。

しかし、私は
「費用は結構です」
とお断りしました。

なぜか?

私にとって、お金は単なる対価ではなく、
「どの程度、自分が評価されているか」
「軽んじられているか」
を測る指標だからです。

その意味で、このやりとりを通じて、十分に評価を認識しました。

つまり、
「ああ、この方とは今後、お付き合いしないほうがいいな」
と確信できたのです。

お金の問題ではない——付き合うべき相手を見極める

誤解しないでいただきたいのは、
「お金が欲しくて仕事をしているわけではない」
ということです。

もちろん、プロとしてのサービスには適切な報酬をいただきます。

しかし、それ以上に大切なのは、
「常識的で、誠実で、敬意をもって接してくれる人と仕事をすること」
です。

ビジネスにおいて、ミスはつきものです。

計画が狂うこともありますし、想定が外れることもあります。

重要なのは、そのときに
「どのような態度をとるか」
です。

・自分のミスを認め、相手に対して誠意をもって接するのか
・うやむやにして、ごまかしながら先へ進めようとするのか

たったこれだけの違いで、仕事のしやすさは大きく変わります。

最後に

弁護士として、さまざまな案件に関わるなかで、
「この人と一緒に仕事をしたい」
と思えるかどうかは、非常に重要なポイントです。

どれだけ大きな案件であっても、相手が誠意を欠いた対応をするのであれば、関わる価値はありません。

逆に、たとえ小さな案件でも、誠実で信頼できる方であれば、全力でお手伝いしたいと思うものです。

お金の問題ではありません。

誰と付き合うかの問題です。

ビジネスをするうえで、この視点を持っておくことは、とても大切なことだと思います。

著:畑中鐵丸