オーナー企業の後継者(二代目以降)も、やっぱり、創業者同様、ケチには変わりありません。
しかし、
「資産を握りしめて、闇深く逼塞して、じっと動かない」
という資産家とは違い、日々実入りがあるせいか、資産家と比べればマイルドなケチです。
また、創業者との違いは、カネの使い方におけるシビアさというか
「ロジカル派ケチ」としての徹底ぶり
が希薄である、更に言うと、ケチっぷりがユルい、という点です。
どんなケチな創業者も、
「ここぞ」
というときにはお金は、半端なく、大胆に、ズバッと、使います。
「ここぞ」
というのは、新規事業やM&A等のリスクはあるが儲けが大きい話と、訴訟や税務問題や監督官庁や取引所からのお叱りといった、ビジネスや財産の安全保障に関わる話です。
いずれも、創業者が大胆なお金の使い方をする際には、徹底した功利分析を行い、
「お金がどのように使われて生きてくるか」
というロジックやメカニズムについて、きちんと腹落ちするまで徹底的に調べ、検証し、裏を取ります。
どんな些細なことでも、わからない点があれば何度も聞き返しますし、少しでも違和感や疑問があれば、さんざん提案させた挙げ句、ビタ1円出さない、なんてしょっちゅうです。
こういう言い方をすると創業者と付き合う方としては面倒臭そうですが、実際は、創業オーナーのお金や関係構築のスタンスは、理由や目的や判断ロジックがしっかりしているせいか、提案した挙げ句、お断りをされても、提案した側(断られた側)も、不思議と腹は立ちません。
「儲からないから」
「これはリスクではなく不確実性であり、プロジェクトではなく、ギャンブルだから、事業として認められない」
「ゲームのルールがわからないし、不合理」
「期待値が低い」
「効果が不明」
という、
「明快なエコノミクスで、バッサリ」
といった感じで、お断りされますし、ド真ん中のポイントを突いており、諸事明快なのです。
ところが、オーナー企業後継者は、このようなシビアさという、しつこさというか、徹底ぶりが窺えません。
特に、あまりお勉強が得意ではなく、学歴等でコンプレックスを抱いている二代目、三代目の場合、自分より知的や経験的に優位に立つ人間が、劣等感を苛(さいな)むような物言いをして、不安に陥れ、救済や改善と称して指導や指南をするような状況においては、財布の紐がゆるくなってしまいがちです。
結果、効果検証なしに、無駄なコンサルや、無意味な金融商品や、危険で毒が満載の投資商品や、どう考えてもバリエーションがデタラメでシナジーもまったく想定できなさそうなM&A案件、といったガラクタを
「衝動買い」
してしまい、結果、無駄にカネを失ってしまう傾向があるようです。
創業オーナーにとっては、お金は、自分の命を削って蓄積したものであり、
「カネのやりとりは、命のやりとり」
であり、完全な納得と腹落ちしない限り、命はやれん、という凄みが感じられます。
ところが、二代目以降になると、親から引き継いだもの、所詮、他人からもらったもの、という安易さ、安直さがあるせいか、どうしても、
「命のやりとり」
といった切迫性、緊張感が抱けないのかもしれません。
また、オーナー企業後継者が資産家と違うところは、
保有している財産である「企業」
が、
一種の「金を稼ぐマシーン」
であり、自己増殖性を有しており、
よほどアホなことをしない限り、資産規模と収益を勝手に増やしていってくれる、
という自律的メカニズムを内包している、という点です。
資産家の場合、承継資産の運用益は、どうしても上限が観念されますし、将来の資産承継の際に賦課される課税の大きさを考えれば、運用益による自己増殖のスピードでは追いつかず、ほっといたら、どんどんジリ貧になる、という危機感があります。
このため、ただただひたすら節約・倹約に努める、求道者のようなケチになってしまいます。
ところが、オーナー企業後継者の場合、無論、波はあるでしょうが、企業の成長エネルギーが大きければ、資産承継の際の税務課題をシビアに悩まずとも、気楽に金持ちライフを堪能できます。
特に、企業規模が一定サイズを超えて株式公開してしまえば、
「上場株式」
という流動性の高い資産が一挙に入ってきますし、数十%超保有しておけば、あとの株式割合を放出しても、事実上、
「効果的な企業統治(別名「私物化」)」
は十分可能であり、この点でも、財産を保全し増殖させる手段が豊富に存在します。
その意味では、オーナー企業後継者のケチ度は相対的にマイルドです。
そして、生まれながらにしてたくさんのカネに囲まれ、カネの使い方、カネの力、カネの限界について、一種の英才教育を実地で受けておりますので、
「大金を手にしたことない貧乏人が宝くじにあたって、カネの毒で、身を持ち崩す」
というような痛々しい失敗とは無縁で、カネと上手な距離感をもって、合理的な使い方をする向きも多いです。
最後に、オーナー企業後継者の場合、
「生まれながらにして『カネ』という可能性の塊を何不自由なく、もっている」
という利点を活かし、そこから、自ら別の企業を創業し、
自身が「オーナー企業創業者」になったり、「投資家」に移行したり
することもある、という点が、特筆すべき点です。
著:畑中鐵丸
初出:『筆鋒鋭利』No.139、「ポリスマガジン」誌、2019年3月号(2019年3月20日発売)