お金というのは、ただの、紙切れであり、記号であり、取り決めであり、幻想です。
例えば、千円札や五千円札や一万円札というものは、JASDAQに上場している某株式会社(日本銀行は、証券コード8301で、東証一部でも二部でもなく、新興市場であるJASDAQに株券上場している一民間会社です)が発行している手形の如き紙片であり、
「日本及び世界中の人が、この『JASDAQに上場している某株式会社が発行している手形の如き紙片』に一定の価値(90ドルなり77ユーロなり65ポンドなり)があるはずだ」
という共同幻想を抱くことで成立している価値空間における、価値表章道具に過ぎません。
最近では、ビットコインという名の下に、新たな価値空間や、当該価値空間における価値表章道具が突如創造され、瞬く間に浸透して一般化していますが、マネーの世界というものが、かなりイージーに作り上げられる幻想空間である、ということが改めて確認できる事象です。無論、崩壊したり無くなったりするのも割とすばやく、あっけなく起こったりするかもしれませんが。
こういう事例は、
「マネーないしマネーに関わる営みの本質が、情報産業でありバーチャル空間創造事業の一種である」
という一面を如実に表わしております。
なお、千円札や五千円札や一万円札が、東証一部でも二部でもなく、新興市場であるJASDAQに株券上場している一民間会社の発行している紙切れ、などというと、
「この弁護士はバカで、モノを知らんな。通貨を発行しているのは、日本国政府であって、そんな、JASDAQに上場しているショボイ企業とちゃうぞ!」
という声が聞こえてきそうです。
しかし、お持ちの紙幣を、目クソをしっかりかっぽじりあそばして、よくご高覧ください。
偽札でない限り、お持ちの紙幣の発行体は、株式会社日本銀行(JASDAQ:8301)という民間企業であることが明記されていることをご確認いただけるかと存じます。
そういうと、
「んなもん、何の違いがあるねん! 日銀も日本国政府も一緒やんけ!」
とか、おぬかしあそばされそうです。
ここまで無知だと、さすがに矯正のしようがありません。小学校か中学校の社会の教科書から勉強し直してください。
日本国政府と日銀は別の組織であり、ミッションもガバナンスも別のものです。
(日銀とは全く別組織の)日本国政府が発行できるのは、500円玉を筆頭にしたコインだけです。コインとは、補助通貨と言われますが、
「取引決済1回につき20枚までしか提供できない」
という制限が付された、決済道具としては相当ポンコツなものです。
国の借金(正確には、国債及び借入金並びに政府保証債務現在高)が1000兆円超えたとか超えないとかで、ギャーギャー騒がれているようですが、法律を改正して、
「取引決済1回につき20枚までしか提供できない」
という制限を取っ払ってしまって、1000兆円分の500円玉を製造して、これを、某JASDAQ上場企業の日本橋の本店に持っていけば、国の借金なんて一挙に返済できちゃいます。
ちなみに、政府の債務といっても、反対側の債権を保有しているのは、日本の企業(たいていは一般の銀行ですが、JASDAQ8301の特殊銀行業を営む某企業が自分で買う場合を含む)や個人です。
日本国を一つの家族として考えると、お父さん(日本国政府)が1000万円の借金を負っているといっても、「借りた先は、サラ金でも闇金でも銀行でもなく、いや、家庭の外にいる親類縁者ですらなく、一緒に暮らすお母さんのへそくりから借りてます」、というのと同じです。
確かに、お父さんは、お母さんに頭が上がらず、いじけていますが、
「家庭全体が危機にひんしているとか、借金取りに追われて夜逃げしなきゃいけないとか、破産して全員クビつる」
とかそんな話ではありません。
なお、この「日本」というご家庭全体では、貯金が328万円あります(対外純資産は2017年末で328兆円です)。
「お父さんがお母さんから1000万円超借金しているが、家族全体で貯金が328万円ある」
なんて話だと、カネがあるのかないのかわからない、なんともビミョーな貯金額ですが、なんと、この貯金額、世界一なんです(日本の対外純資産額は、2位のドイツを70兆円以上引き離し、ダントツの世界一)。
話は脱線しましたが、お金を貯めることは多いに価値と意味がありますが、お金の本質は、紙切れなり金属の塊によって表章される「幻想価値空間」の道具に過ぎません。
賭博場のポーカーチップや、パチンコホールのパチンコ玉と同じであり、大事に貯め込むというのは本来の効用のあり方ではなく、使ってこそのものです。
著:畑中鐵丸
初出:『筆鋒鋭利』No.135、「ポリスマガジン」誌、2018年11月号(2018年11月20日発売)