00066_成功者たちは割引券や会員証をもたない_20090820

社会的・経済的に成功した方たちと、そうでない方とのライフスタイルや行動哲学で気がついたことを少しお話ししたいと思います。

最近、いろんな小売り店で、お客さんを呼び込もうと割引券や会員証が発行されます。

しかし、社会的に成功した方たちが持っていそうで持っていないものの代表選手が、この手の割引券や会員証の類です。

確かに、さまざまな割引券や会員証を使いこなし、数々の特典をうまく利用している方々は多数いらっしゃいますし、雑誌でも「ポイントやマイルを使いこなせ」等といった特集が組まれることがあります。

割引券や会員証を巧みに使いこなしておられる方々は、一見すると、非常に目先が利いて知能が高いような印象を受けますが、この種の方々で社会的・経済的に成功されているという方はあまりお見かけしません。

成功されている方の財布は実にシンプルな中身で、メジャーなクレジットカードや必要なIDカードの類は別として、小売店の会員証や割引券などほとんどお見かけしません。

私の想像ですが、成功者と呼ばれる方々は、自分の思考や哲学がしっかりしていて、自分の思考や哲学や行動を縛るようなものを自然と忌避するのではないでしょうか。

会員証や割引券があると、知らず知らずのうちに、経済的意思決定が影響を受けます。「安いから」「得だから」という理由で不要なものを買ってしまったり、食事をするのに、割引券が使える店に行くために不要な時間を費消してわざわざ遠回りしてしまったり、実に無駄が生じてしまいます。
それ以上に、常に会員証や割引券に誘導されてしまうと、本当に自分が買いたいものや食べたいもの、行きたいところややりたいことがわからなくなってしまいます。

会員証や割引券などがなくて被る経済的不利益はわずかなものですが、発行企業の思惑にしたがってしまうことは、経済人としての意思決定がゆがめられてしまい、ついには、「意識すらしない形で発行企業の思い通りに動き、消費するだけの人間」に成り下がってしまい、経済人としての自我を喪失する危険があるといえます。

何らかの分野で成功し、一角の地位を築く人たちというのは、マジョリティの人間と比べて感覚が鋭敏であるため、自己の思考や尊厳を脅かすこの種の他律的支配を皮膚感覚で不愉快と感じ、忌避するのでしょう。

私がよく行くある店では、店員の方から精算の度に「会員証をお作りしましょうか」と笑顔で聞かれます。

無論、その店の利用頻度は高く、会員証を作って提示すればささやかな経済的メリットが享受できることは明らかです。
しかし、私は当該会員証を作ることは長らくしませんでした。自己の尊厳とか哲学とかそういった高尚な理由ではなく、財布が分厚くなるのがイヤだったのと、何だか貧乏臭いと思ったからです。

その後、社会的成功者と呼ばれるクライアント企業のトップの方々が前記のように会員証とか割引券を携帯していないことに気づいてから、この種の会員証を作ることを控えるようになりました。

その結果、以前に比べて自分がすごく自由になったような気がしました。
会員証や割引券のように「普段何気なく使っているもので、自分の自由を狭めているようなもの」というのは探してみると結構あると思いますが、そういうものを捨て去ってみると世界が違って見えてくるかもしれません。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.024、「ポリスマガジン」誌、2009年8月号(2009年7月20日発売)

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