00092_苛酷な社会を生き抜くための「正しい非常識」20_(6)「目的の発見・特定・明確化」の次に大事なことは、「課題や障害の発見・特定・明確化」_20191220

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本コンテンツシリーズにおいては、個人で商売する方や、資産家や投資家や企業のオーナー経営者の方、出世して成功しようという意欲に燃える若い方、言い換えれば、「お金持ちや小金持ち、あるいはこれを目指す野心家の方々」へのリテラシー啓蒙として、「ビジネス弁護士として、無駄に四半世紀ほど、カネや欲にまつわるエゴの衝突の最前線を歩んできた、認知度も好感度もイマイチの、畑中鐵丸」の矮小にして独善的な知識と経験に基づく、処世のための「正しい非常識」をいくつか記しておたいと思います。
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仕事でも、勉強でも、試験でも、結婚でも、出産でも、育児でも、ビジネスでも、裁判でも、手術でも、治療でも何でもいいのですが、
「一定の達成目標が存在し、これが達成できるかどうか不明の状態において、目標を達成するための営み」
というものが観念できると思います。

ここでは、このような
「結果が蓋然性によって左右される、ゲーム性ある営み」
のことを、
「プロジェクト」
という形で定義します(別の正確な定義があるかもしれませんが、ここではこの定義を前提に話を進めます)。

プロジェクトにおいても、人生においても、国家運営においてすら、もっとも大事なことは、すでに申し上げたとおり、もちろん、明確で現実的で具体的なゴールの設定です。

ゴールの設定もなしに、あるいはゴールが曖昧で不明確なまま、プロジェクトだけが突っ走った場合の、悲惨な結末というのは、大日本帝国軍の太平洋戦争での惨敗等を含め、さんざんお話をしてきました。

というか、ゴールのはっきりしないプロジェクトは、そもそも
「プロジェクト」
とはいえず、実際は、
「プロジェクト」
という名の
「暇つぶし」
「空回り」
「道楽」
というべき営みです。

では、ゴールがはっきりくっきり見えた後、すなわち、
「プロジェクト」
がきちんと成立した後、
「次に何が重要か」
というと、いきなり走り出したり、何かをおっぱじめたり着手したり取り掛かったりすることではありません。

プロジェクトを進める上でもっとも大事なことは、課題の発見・抽出・特定です。

ここで発見・抽出・特定するべき課題は、もれなく抜けなくすべての課題を意味しますし、大小含め、多ければ多いほど吉兆(よいきざし)といえます。

「病気の治療」
というプロジェクトを考えてみましょう。

病気に関わる多くの医者(外科医を除く)がやっているのは、病気を治すことではありません。

病気を治すのは、薬であり、薬剤師です。

医者がやっているのは、病気を発見し、特定する作業です。

患者が高熱を発している。

これに対して医者がまずやるべきは、効きそうな薬を適当に、手当り次第に投薬することではありません。

当該高熱が、風邪によるものなのか、エボラ出血熱なのか、インフルエンザなのか。

インフルエンザとして、何型か、ということを、具体的に発見・抽出・特定することが何よりの先決課題です。

そして、
「病気を治すわけでもなく,病気を発見特定する程度のことしかできない医者」

「実際病気を治す薬剤師」
より大きな顔をしていることからも理解できますが、課題を発見・抽出・特定するのは、実は、課題を処理するよりも、非常に重要で高度で知的でリスペクトされるべき業務なのです。

課題が具体的かつ明確に見えていれば、プロジェクト成功は間近です。

逆に、大きなプロジェクトに取り掛かっていても、
「特に、課題らしき課題は見当たらない」
という状況は必ず失敗に終わります。

大阪の商人の世界では、こんなことをよくいいます。

「ええ話ほど邪魔が入りやすい」

シンプルな言葉ですが、これほどビジネスの危機管理を端的に言い表したものはありません。

大きい話、儲かる話、美味しい話には、必ずといっていいほど課題やトラブルがつきもので、一見、課題やトラブルがなさそうでも、誰かに足を引っ張られたり、誰かに邪魔されたり、思わぬ障害が見つかって対処困難な状況に陥ったり、身内に足を引っ張られたり、と想定もしていない妨害や障害が立ちはだかります。

実際、大きなビジネスプロジェクトを進める場合、しっかりとしたチームがまず着手するのは、企業法務・ビジネス法務を交えた、
「ネガティブ」なブレーン・ストーミング
で、リスク検証であったり、
「ビジネスのストレス・テスト」
です。

邪魔や障害となるのは、何も商売敵だけとは限りません。

信頼して取引をはじめた取引相手が、爪を伸ばして些細な契約書の穴をつついてモメたりゴネたりしはじめることもあります。

法律や規制官庁や公取委がケチをつける場合もあります。

また、新しい商品やサービスを客が腐す、マスコミがバッシングする、最近では、ネットやSNSで炎上して、売れ行きが止まる、ということもあるでしょう。

さらには、身内の役員や従業員が漏れ抜けチョンボをやらかしたりする。

加えて、企業を裏切り、ネットで暴露する、他社に引き抜かれる、また、退職して同じ商売を始めて商売敵となる、ということもあるかも知れません。

いずれのリスクも、すでに存在するものは早期に具体的に特定しておくことが大切です。

いまだにリスクとして具現化していないものであっても、萌芽段階や予備・未遂段階において
「些細な兆しからイマジネーションを駆使して早く見つけること」
は、
「事業を前に進めること」そのもの
と同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。

「早期に発見され、抽出され、特定され、具体化されたリスク」
は、もはやリスクではありません。

リスクや課題は、早く、小さいうちに発見できれば、必ずといっていいほど、潰せます。

「完全に潰せないし完全に無くせないリスク」
であっても小さくできますし、小さいリスクは制御ができます。

しかも、早ければ早いほど、リスクや課題に対処するコストや時間やエネルギーは小さいもので事足ります。

取引のリスクなどその最たるものです。

取引に関するリスクについては発見さえできれば、あとは、契約書上において、当該リスクに対処する方法を文書として記述し、これを契約書に上書きさえしてしまえば、リスクは一瞬でなくなります。

あるいは、不可避の規制リスクがあっても、ビジネスモデルを変更(法的三段論法において、小前提を変更して、大前提の適用射程から逃れる手法)ことで、いくらでもリスクの発現を防げます。

さらにいえば、どうしてもリスクを消せなければ、最悪、取引そのものをやめてしまえば、リスクから完全に逃れられます(逆に、同じく大阪商人の「意地商いは身の破滅」という処世訓のとおり、サンクコスト〔埋没費用〕を忌避し、リスクを過小評価し、冒険的な取引を推進してしまうと、必ず大失敗してしまうこともあります)。

そして、これらの対応は、すべて、リスクなり課題が、発見、抽出、特定、具体化されていることが大前提です。

「見えない敵は討てない」
との戦術格言のとおり、制御対象がはっきりしないリスクなり課題は、対処・制御しようがありません。

成功の確率は、事前に発見・特定できた課題の数と種類に、見事に比例します。

成功したかったら、とにかく、なるべく多くの課題を、具体的に特定する形で見つけていきましょう。

課題が多く見つかったら、課題の多さを嘆くのではなく、成功までの道のりの近さを喜ぶべきです。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.148、「ポリスマガジン」誌、2019年12月号(2019年11月20日発売)

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