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本コンテンツシリーズにおいては、個人で商売する方や、資産家や投資家や企業のオーナー経営者の方、出世して成功しようという意欲に燃える若い方、言い換えれば、「お金持ちや小金持ち、あるいはこれを目指す野心家の方々」へのリテラシー啓蒙として、「ビジネス弁護士として、無駄に四半世紀ほど、カネや欲にまつわるエゴの衝突の最前線を歩んできた、認知度も好感度もイマイチの、畑中鐵丸」の矮小にして独善的な知識と経験に基づく、処世のための「正しい非常識」をいくつか記しておたいと思います。
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前稿において、時間はカネより健康より命より大切であり、時間こそを大切にすべき、というお話をさせていただきました。
1 「カネより命より大事な時間」を大切に、全てにおいて効率よく、無駄なく、スピード感を以て、急ぐべき。急ぐべきだが、焦るのはダメ
もちろん、
「時は金なり」
「時は命なり」
であり、無駄なことや、無意味なこと、
「好きでも得意でもなく、やったところで大した効果は得られず、ただただ、辛いだけで、他にやるべきことが多いのに、誰かに強制されたり命令されたり、場の雰囲気にのまれて、どうでもいい弱点克服のために膨大な時間を費やすこと」
など、時間を無駄に、非効率に使うことはすべきではありません。
だからといって、焦ってはいけません。
急いでもいいが、焦ってはダメです。
理由は簡単。
2 焦ると、どんな賢者であってもアホに成り下がる
焦ると、人間、確実にバカになるからです。
ノーベル賞を取った科学者であろうが、オックスフォードやハーバードや東大の教授であろうが、どんなに知性がある人間でも、火事や地震や津波や噴火にいきなり遭遇して、一刻も早く逃げないと死ぬかもしれない状況に陥ったら、絶対、冷静に行動できません。
引き戸を押し続けたり、出口と反対方向に逃げたり、人混みに突っ込んでいって将棋倒しになったり、逃げる方向を間違えたり、と、バカなこと、愚かなこと、間違っていること、理解できないことをやらかします。
3 「環境の力」>「意思の力」
人間の行動に最も影響を与えるのは、意思や知性ではなく、環境や状況です。
知性の力や、意思の力は、冷静に対処し得る環境があってこそ発揮できます。
よく
「意思の力」
「精神力」
などといいますが、
「意思の力」
は
「環境の力(状況から発生する構造的な因果性)」
に絶対勝てません。
どれほど意思の力や精神力があっても、竹槍を使ってB29型爆撃機を撃ち落とすことは不可能です。
「15センチ対空砲の装備」
という環境があって、初めてB29と戦えるのです。
「腹が減っては戦はできぬ」
とはよく言ったものです。
凄まじいまでの強靭な意思の力や精神力があっても、兵糧なしでインパールに至るティディム街道を踏破できません。
4 アホにならないために、常に、余裕と冗長性を保持するべし
その意味では、知的でいられる、冷静でいられる、バカなことをしでかさないように、常に余裕をもって生きられるよう、自分を取り巻く状況や環境の選択や構築にもっと気を使うべきです。
冷静さを失わないようにして、物事を俯瞰し、自分を客観視し、選択肢を豊富にもち、時間的冗長性をもって、納得いくように自分や状況を制御しながら、判断し、実行してみて、ダメならあきらめて、またゲーム・チェンジして・・・、と生きていくと、たいていの物事はうまくいきますし、悲惨なことにはなりません。
5 「金持ち喧嘩せず」の「金持ち」意味は、「余裕と冗長性と選択の幅の広さの象徴」であるカネを豊富に持つ、ということ
俗に、
「金持ちケンカせず」
といいます。
カネをもっている人間には、選択肢が豊富に集まりますし、
「時間をなくせばどんなにカネを積んでも戻ってこないが、カネをなくしても時間があればカネを作れる」
といいますが、カネさえあれば、少しであれば時間を買うことすらできます。
札幌から福岡に行くのに、新幹線よりヘリコプターで、ヘリコプターより戦闘機で、戦闘機よりロケットで行けば、カネはかかりますが、時間が短縮されます。
東大に行くために何年間も費やさなくても、東大卒程度の人間であれば、年間数千万円程度のお金で、雇って、顎でこき使うこともできますので、秘書か執事として近侍させれば、済む話です。
だいたい、カネがあると気持ちに余裕ができ、焦る必要がなくなります。
6 「貧乏人が持ち慣れないカネをもつと、全てをなくして、最後は路頭に迷う羽目になる」に至る具体的プロセス
突然、5億円が手に入ったら、どうしますか?
欲望を全面的に解放し、いままでできなかった贅沢や我慢していたことを心ゆくまで楽しみますか?
そうすると、お金が減ります。
お金が経ると、余裕をなくします。
そうして、焦ります。
焦ったら、途端にバカになります。
アホになります。
いきなりカネを増やそうとして、取り返そうとして、危険な賭けに出ます。
そして、全てをなくします。
さらに焦ります。
もう制御が効きません。
ついには、自分がそれまでもっていた財産を全てつぎ込んで、一発逆転を狙った大博打を打ちます。
でも、焦っているし、冷静さを失っていますし、バカな自分が、いつもよりも18倍くらいバカになっている。
焦っているバカを騙すほど簡単なものはありません。
詐欺師やペテン師が、生肉に群がるハイエナの集団のように、黒山の人だかりとなって、近づきます。
それで、全てをなくします。
俗に、
「貧乏人が持ち慣れないカネをもつと、全てをなくして、最後は路頭に迷う羽目になる」
といいますが、たいていは、このような展開です。
7 冗長性の象徴としての「カネ」の力、持っているだけで冷静さと知性を向上・改善させてくれる「カネ」の力
では、いきなり、5億円手に入ったら、どうするのが賢いのか?
使わないのです。持っておくのです。
5億円の値打ちは、使って贅沢することだけではありません。
もっているだけで、預金として寝かせているだけで、気持ちに余裕ができ、焦る必要がなくなり、いつもより、ゆったりと、冷静に物事を考えることができるようになることです。
感覚値でいうと、偏差値が15から25くらい向上・改善します。
偏差値55が偏差値80になるわけですから、平均的なサラリーマンの脳が、東大卒財務省のキャリア官僚の脳にまでアップグレードされるわけです。
冷静になれると、
「お金を増やす話と、詐欺やペテンの話との違い」
を、きちんと見分けられるようになり、ゆっくり、じっくり、確実に、カネを減らすリスクやトラブルを避けて、安全・安心に増やす行動を取ることができます。
もっというと、今の日本のように、実質デフレの世の中では、何もせず、お金をもっている、ただそれだけで、どんどんお金の価値が増えていく(モノの価値が下がっていく)わけです。
預金しているだけで、知らない間にどんどん補助金がついてくるようなものです。
「何もせず、使わず、ただ預金するだけ」
という
「デフレ下における最強の投資戦略」
を採用してもいいわけです。
余裕をもち、冷静さを維持すれば、そんな怜悧な考えすらできるようになる。
お金というのは、使わず、持っておき、寝かせておき、ときどき眺めてニンマリする。
これが、お金の本当の力であり、お金の使い方です。
自由と安らぎをもたらし、心にゆとりと平安を抱かせてくれる精神安定剤。
お金の意味と価値の根源は、こんなところにあり、金持ちほど、こういうカネの力と意味を知っています。
8 戦略資源としての「カネ」の意味と使い方
「金持ちケンカせず」
の話に戻ります。
カネをもっている人間の最大の強みは、
「カネで解決可能な選択肢」を複数掌握できることです。
「地獄の沙汰も金次第」
との諺どおり、この世に存在する
「解決可能な選択肢」
は、ほとんどカネさえあれば買えます。
例えば、宇宙飛行士になるだけの知性や体力や精神力がなくても、カネを積んで、自分でロケットを飛ばして、そこに乗り込めば、
「知性もなく、健康でもなく、メンタルもいまいちな大金持ち」
だって、宇宙に行くことができます。
カネは、知性や体力や精神性すら、調達ないし補完することのできる、便利な道具なのです。
9 金持ちは、貧しい方が焦って急いで動いて自滅するのを待つだけでいい。だから、喧嘩しなくても勝てる
他方、貧しい方は、時間も余裕も選択肢もないので、焦って、動いて自滅するのです。
だから、金持ちは、ケンカなどしなくても、焦って動いて失敗する貧しい方の自滅を待つだけでいいのであり、ケンカする必要がないのです。
これが私の理解する
「金持ちケンカせず」
の意味です。
なお、貧しい方も、知恵と時間を有効に活用することで、ごく稀に、金持ちを打ち負かすことができます。
貧しい方は、知恵を絞り出し、時間をひねり出し、一見強大な金持ちを倒してください。
貧乏は、決してハンデではありません。不便を克服した者が、便利に頼って安穏として過ごした者を倒した例は、歴史上、それこそ、ゴマンとあります。
とはいえ、
「知恵のないフツーの貧しい方が、頭のいい金持ちに刃向かって、フツーにコテンパンにやられた例」
は、さらに5万倍以上あることにも注意してください。
著:畑中鐵丸
初出:『筆鋒鋭利』No.151、「ポリスマガジン」誌、2020年3月号(2020年2月20日発売)