00114_「ベンチャー企業経営者が陥りがちなビジネス・マネー・人生全般における失敗」の傾向と対策_9_聴講者からの質問その1_中小企業の海外M&Aについて成功例をご教示いただきたい

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本コンテンツシリーズは、アジア経営者連合会「ALA経営塾」主催にて、令和3(2021)年3月25日(木)17時30分開始にて行われました、弁護士畑中鐵丸の講演「組織と個人の用心棒、顧問弁護士の使い倒し方・ベンチャー企業経営者特有の失敗の傾向と対策~ベンチャー企業経営者なら皆さん身に覚えがあるビジネスやプライベイトの失敗事例と対策のための”あの手・この手・奥の手”を25年超のキャリアをもつベンチャー弁護士が直接伝授します~」の講演レジュメ及び講演録から編集したものです。なお、本講演内容は、筆者(講師)独自の見解であり、所属組織及びアジア経営者連合会ないしALA経営塾のものとは一切関係ありません。
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中小企業のほとんどは、海外M&Aで成功していません。というより、死屍累々といった感があるほど、ことごとく失敗しています。

その失敗の傾向や原因については、

企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト1~2

企業法務部員として知っておくべき海外進出プロジェクト3~12

にまとめています。

一部、引用し、転載しておきます。

引用開始==================>
まず、そもそも、なぜ、中国やその他アジア各国に進出するのでしょうか?
その経済的意味はどこにあるのでしょうか?
ここで、倫理や道徳や綺麗事を捨象して、シビれるくらい、シビアに、純経済的に、合理的に目的考察をしてみます。
「アジア進出の動機として、生産拠点を日本からアジアにシフトする、ということを考える企業」
においては、アジア進出のメリットは、ずばり、
「低賃金」
です。
すなわち、
「現地の方を安い給料で、コキ使えるから」
というのが進出の理由として推定されます。
だからこそ、
「最近は中国の人件費が高くなったからベトナムがいいぞ」
「いや、ベトナムも高いから、ミャンマーとかカンボジアだぞ」
といった、話が聞こえてくるのです。
要するに、生産拠点をシフトする形で中国に進出する企業は、別に、
中国が好きとか、
民間レベルの日中友好を進めたいとか、
本場の中国料理が好きとか、
中国の方々が大好きとか、
4000年の歴史に敬意を感じたから、
といった動機ないし目的ではなく、その真の目的は、
「(日本人とくらべて相対的に)安くて、コキ使える無尽蔵の労働力がある」
と考えて、進出するのです。
だから、中国より安いところがあると、経済的判断において、
当該「さらに安い人件費」
を求めて、進出先を変更したりするのです。
かつて、植民地支配の時代に、欧米列強が、(当時の彼らからみて)劣等民族であった現地人を、奴隷労働力(植民地時代の欧米列強の一般的認識としてです)として廉価に活用できるから、という理由で、アジアアフリカ諸国や中南米において生産活動を行っていたことがありました。
生産拠点を日本からアジアにシフトすることを目的とする企業の進出動機は、
「倫理や綺麗事を捨象した、純経済な観察における目的」
として考察すれば、要するに、これと同様であり、現地の人的資源を経済的に有利な条件において生産資源として活用したい(からアジアに進出する)、というのが、その目的ないし真の動機として捉えられます。
また、別の企業は、進出するアジアの国を、自社の商品を消費してくれる巨大市場とみて、進出するところがあるかもしれません。
この点についても、かつて、植民地支配の時代に、主に商品を販売することを企図した欧米列強の企業がアジア各国に進出したケースと同様、(当時の彼らからみて)文明レベルの劣る民族に対して、
「現地では作れない、現地の方の消費欲求を掻き立てる圧倒的な価値と希少性を有する商品・サービス」
を提供することによって、母国では考えられないほど容易に、市場争奪や市場支配が可能だったからです。
現代の日本で、販売拠点をアジアに設けることを目的とする企業の進出動機も、建前や倫理・道徳を一切捨象して純経済的に突き詰めれば、これと同様、母国とくらべて有利な競争環境を求めて効率的に稼ぎたい(からアジアに進出する)、というのが、その目的ないし真の動機として捉えられます。
無論、アジアに進出する企業は、こんな
「時代錯誤も甚だしい下劣な言い方」
で、その動機や目的を語ることはなく、綺麗事や建前として、ジェントルでエレガントに響く進出目的(相互互恵による国際的な協調、対等な真のパートナシップによる相互発展など)を騙り、ディスインフォメーション(情報偽装)します。
「この種の韜晦を、いけしゃあしゃあとカマし、実際の目的ないし動機は、植民地時代の欧米列強の企業のものと同様のものを強固に持ち、これを、SMART基準に落とし込んで、部下に的確な指示を出し、シビアに当該目的を達成する」
という企業は、まず、間違いなく進出に成功します。
他方で、本音と建前がよくわからない状況で頭脳の中でカオスとなっている(さらにいえば、「国際進出をした国際的な企業の国際的な社長さん」とみられたい、などというくだらない意地や見栄のため、進出自体が自己目的化しているような)企業については、アジア進出の目的を見失い、確実に失敗します。
<==================引用終了

引用開始==================>
まず、
「海外進出を任せるに足るリーダー(責任者)」
のスペックを議論する前提として、当該リーダー(責任者)をタスクデザインを明らかにする必要があります。
(「海外の国や人々や各団体と仲良くなって、国際交流する」などといった活動とは真逆の、)「国内事業展開より数倍、数十倍困難な海外進出を経済的に成功させる」
ためのタスクを、(四半世紀ほどにしかならない私の拙い実務家経験を基礎に)合理的に設計してみますと、

1 現地の人間になめられないような制度やカルチャーを現地法人に浸透させ、確立する
2 強烈な強制の契機をはらんだ圧倒的なオーラを醸し出し、徹底して高圧的な支配を実行する(とはいえ、植民地時代ではないので、支配的な要素はおくびにも出さないように努め、極めてジェントルかつエレガントに、スマートな形で実効的支配を展開する)
3 俗悪・無作法・怠惰を許さない、徹底した管理を敷く。
4 客観的基準と合理的観察によるエゲつない能力差別を行ない、論功行賞を明確に実施し、ルール違反者に対する過酷な懲罰を徹底して行う
5 独禁法を愚弄する精神で、競争者の存在を否定し、あるいは新規参入の目を容赦なく摘む形で、市場を迅速かつ圧倒的に支配する(つもりで頑張る。実際は法令には触れないように細心の注意を払う)。
6 このような市場支配(を目指した、法に触れない経済活動)を、大量のカネ、物量を背景に、高圧的に、スピーディーに、SMART基準にしたがって、効率性を徹底追求して行う

というものになろうかと考えられます(もちろん、コンプライアンスは無視ないし軽視できませんので、諸外国の法令を含めたあらゆる法令に違反ないし抵触しないよう、細心の注意を払うべきことは大前提となります)

(中略)

敷衍しますと、
「海外進出を任せることのできるリーダー(責任者)」
の人材イメージとしては、
1 「海外進出を経済的に成功させるために必要となる、いずれも極めて達成困難な、各タスク」 を、命を賭して、完全に成し遂げる強靭な意志と、
2 これら各タスクを、一定の冗長性(リスクや想定外に常に対応しうるための時間的・経済的・精神的冗長性)を確保しつつ、涼しい顔をして、平然かつ冷静にやり抜けるだけの知識・経験・スキルと、
3 「成功時に得られる、鼻血が飛び出るくらい、旨味があるインセンティブ」を設計して、臆面もなく要求するだけの豪胆さと、当該インセンティブに対する健全な欲望と、
4 声一つ発することなく、被支配者が自然とひれ伏す強烈なオーラと、
5 悪魔の手先のような性根と、
6 遂行しているタスクの毒々しさを全く感じさせることなく、常に、ジェントルかつエレガントに振る舞える典雅さ、
といった各スペックを漏れなく実装した人材、ということになろうかと考えられます。

上記の
「海外進出を任せることのできるリーダー(責任者)」
の人材イメージって、皆さんに、どこかでみたような、そんな既視感が生じませんでしたでしょうか。

すなわち、上記の
「海外進出を任せることのできるリーダー(責任者)」
の人材イメージを受けて、皆さんにおいては、
「これって、まるで、東京でたまにみかける、『日本人を蔑視して、舐め腐っていて、死ぬほど高額の給料をもらって、唖然とするくらいいい暮らしをしていて、クソ忌々(いまいま)しい、反吐が出るほど、イヤ~な感じの、外資系企業の幹部』そのものじゃないか!」
といった感じを抱かれたのではないでしょうか。

そして、そういう
「東京でたまにみかける、『日本人を蔑視して、舐め腐っていて、死ぬほど高額の給料をもらって、唖然とするくらいいい暮らしをしていて、クソ忌々(いまいま)しい、反吐が出るほど、イヤ~な感じの、外資系企業の幹部』」
によって経営されている外資系企業は、どの企業も、順調に儲かっているのではないでしょうか。

こういう言い方をすれば、帰納的に理解・納得いただけるのではないか、と思います。
<==================引用終了

著:畑中鐵丸