開業医における有事というものは、フェーズがすすむと、たいてい、診察時間に医院内にて起こります。
「受付に嫌がらせをしに来た」
「(当方としては)受け取ってはいけない“文書”を持ってきて、受付に無理やり置いていった」
「受付スタッフをそれとなく脅しに来た」
「待合の患者に医院の悪口を吹聴しに来た」
等々があげられます。
(患者の診察を終え、)診察室から出てきたら状況が飲み込めないほど変わっていた、というように、急激に状況が悪化することもあります。
だからといって、やみくもに恐れて休診にすると、患者が減る事態にもなりかねません。
すべては、トレードオフ課題です。
「休診するのか」
「そのまま診察を続けるのか」
の1つをとっても、トレードオフ課題なのです。
「そのまま診察を続ける」
を選択するのであれば、通常どおり診療を続けねばなりません。
だからといって、責任をスタッフに押し付け、診察室に入るのは、愚かというものです。
「何かあったときには、何とかしてね」
「何かあったら、呼んでくれたらいいよ」
などと、スタッフにあいまいな指示をして診察に入るのは、
「無策」
と同義です。
それは、任せる先の人間のレベルと限界を把握せずに、細かい指示を与えずに、警戒もせずに、細かくフォローもせずに、手放しで任せる、ということなのです。
要するに、有事の際、
「何とかなるだろう」
「誰か(スタッフ)が何とかしてくれるだろう」
などと楽観的に考えるのは、愚の骨頂といえましょう。
有事の心得としていえるのは、経営者であるトップ自身が、
「唯一の正解があるわけではない有事においては、トレードオフ状況を踏まえた上で、選択をする勇気をもつこと」
と、
「選択したことを正解にする努力を続ける」
しかない、ということです。
著:畑中鐵丸