<事例/質問>
アパートを経営しています。
不動産会社から、
「賃借人が高齢のため、賃借人および保証人の変更契約が必要」
という連絡がありました。
旧賃借人のサインが取りにくいとのことで、当初の契約は
「サイン+印鑑」
でしたが、更新契約では
「名前の印刷+印鑑」
にしており、今回の賃借人変更通知書および保証人変更契約でも
「名前印刷+印鑑」
にする提案を受けています。
当初の打ち合わせ通り、実印と印鑑証明の提出をお願いしたのですが、もし本人のサインがない場合、原契約の印鑑のみで契約することは、やはり法的効果が弱いでしょうか?
<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>
不動産の賃貸契約や保証人の変更契約において、署名の形式や印鑑の種類は法的効果に影響を与える重要なポイントです。
署名の真正性や法的効果の強度について理解しておくと、契約を交わす際の判断材料になるでしょう。
契約署名の法的効果の強さは以下の順序で分かれます。
1 自署+実印(印鑑証明付きの登録印)
自署と実印の組み合わせは、署名の真正性を証明する最も強力な方法です。
自署とは本人が直接サインすることを指し、実印は役所に登録された公的な印鑑です。
この組み合わせでは、契約書に対する本人確認が確実に行われているため、第三者からの信頼性も高く、法的効力が非常に強くなります。
2 記名(名前印刷)+実印
自署ではなく名前の印刷に実印を組み合わせた場合です。
記名のみでは本人が直接契約意思を示した証拠が弱くなる可能性がありますが、実印を使用することである程度の法的効果が確保されます。
ただし、自署に比べると真正性はやや劣るとされます。
3 自署+契約印と同じ認め印(登録されていない三文判)
実印ではなく、認め印で契約する場合です。認め印は法的には一定の効果を持ちますが、偽造や不正のリスクがやや高まるため、実印ほどの信頼性はありません。
しかし、自署があることで本人の意思は確認されているため、一定の効力が認められます。
4 自署+契約印と異なる認め印
自署があっても契約時に押印された印鑑と異なる印鑑を使用すると、契約書の真正性が疑われる場合があります。
契約印と異なる認め印は、本人確認や契約意思の確認が十分に行われたとは限らないため、法的効果はかなり弱まることになります。
5 記名+契約印と同じ認め印
本人が署名せず、記名(名前印刷)と契約時の認め印のみの場合です。
この場合は法的効果が最も弱く、第三者による署名の不正や意思確認が曖昧になりやすい点で注意が必要です。
以上の順序から分かるように、
「記名+認め印」
の組み合わせは、法的には最も弱いものとなります。
もし賃借人が高齢で自署が難しい場合でも、契約の法的効果を確実にするためには、少なくとも
「記名+実印」
に加えて印鑑証明の提示を求めるとよいでしょう。
著:畑中鐵丸