00183_ケーススタディ_契約における名前の表記と意思表示

<事例/質問>

アパートを経営しています。

先日、不動産会社から
「賃借人が高齢のため、賃借人および保証人の変更契約が必要」
との連絡がありました。

賃借人は入院し、自署や実印(印鑑証明付きの登録印)が難しいとのことです。

過去のご助言(0018100182)に基づき、以下のように最も強度の高い対策を取ることにしました。

対策1
「土地保有者及び賃貸人名義変更通知書」、「連帯保証人変更に関する覚書」(債権債務清算条項を効かせる)を作成し、旧賃借人の署名欄の直下に「上記は、●●(旧賃借人)の意思に基づくものであることを表明し、保証する」と記載し、新賃借人が署名・押印する

対策2
文書の末尾に立会人として不動産会社の代表者が「本書が、●●(旧賃借人)の意思に基づくものであることを、立会人として、表明し、保証する」と記載し、署名・押印を行う

その上で、不動産会社がもってきた契約書を確認したところ、もともとの契約書と今回の契約に関わる書類において、氏名欄に、旧常用漢字・常用漢字の違いがあることがわかりました。

もともとの契約書では、旧賃借人の記名欄に「旧常用漢字」が使用されています。

今回の契約に関わる旧賃借人・新賃借人・保証人は、親子関係で全員苗字が同じなのですが、名前にはすべて「常用漢字」を使用しています。

質問です。

1 今回の契約書において、旧賃借人の名前も「常用漢字」で記載して問題はないでしょうか?

2 もともとの契約書に合わせて、旧賃借人の名前だけ「旧常用漢字」にする必要があるのでしょうか?

3 なお、不動産会社によると、パソコンで旧常用漢字が出てこないため、対応に悩んでいると、言っています。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

「常用漢字を使おうが、旧常用漢字を使おうが、どちらでも差し支えない」
ということになります。

住所と氏名の両要素で本人特定しますので。

同じ住所に●●●(旧常用漢字)と◎◎◎(常用漢字)の2名いれば大変ですが、特定の個人をさすことは明らかです。

在日外国人の中には、何十回、何百回と契約を重ねても、本名を名乗らずに通名(ペンネーム)で契約を行う方がいます。

しかし、その場合でも契約が無効になることはありません。

たとえば、歌手の「松田聖子」さんとの契約を考えてみてください。

本名の「蒲池法子」でサインしても、芸名の「松田聖子」でサインしても、それだけで契約が無効になることはありません。

同じく、契約の成立には
「意思表示の合致」
が最も重要であり、その痕跡さえ確かであれば問題ないのです。

つまり、
“「松田聖子こと蒲池法子」という、該当する住所に住むただ一人の日本人がその意思表示を示した”
という痕跡が揺るぎない限り、契約内容の有効性は保持されるのです。

正式には、

「●●●(旧常用漢字)こと◎◎◎(常用漢字)   ◎◎◎(常用漢字)<印>」

が確実だと思います。

著:畑中鐵丸