00204_ケーススタディ_ビジョンなき企業とプロジェクトの迷走—コンサルはどう関与すべきか?

<事例/質問>

ある企業が新規事業を立ち上げることになり、コンサルタントとして相談を受けました。

ところが、
「このプロジェクト、何を目指してるんですか?」
と経営陣に聞いても、答えがフワッとしているんです。

ビジョンが定まっていないから、戦略の方向性も曖昧。

そのせいで、戦略補正力が弱く、RFP(提案依頼書)も散漫になり、実行フェーズに入っても思い通りに進まない、という状況です。

アイデア自体は出てくるものの、
・どの段階で何を収穫すべきか
・収穫したものが改善につながるのか
といったアプローチが不明確なため、実行に移してもうまく機能しません。

現在、コンサルタントとして考えているコミットの範囲は、以下の3つです。

1 戦略を正しく形成する方法論の導入
2 戦略例の提示
3 実行の監視

方法論や戦略例は、プロジェクトごとに調整しながら進められるため、コンサルタントとしての知見や手腕が活きると考えています。

しかし、根本的な問題は、企業のビジョンが不安定なことです。

さらに、企業には頼れるアドバイザーもいないため、いつ、どのプロジェクトで、オーナー社長による
「ちゃぶ台返し」
起こるかわからないという不安があります。

このまま進めて、本当に大丈夫なのだろうか?

それとも、もっと別のアプローチが必要なのだろうか?

コンサルタントとして、どこまでコミットし、どんな布石を打つべきかを悩んでいます。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

この状況、例えるなら
「大工の親方」

「ゼネコン」
の違いに似ています。

腕利き大工が家を建てるとき、
「図面? そんなの頭の中に入ってるよ。カンナとトンカチで、チョチョイのチョイで作るから、金だけ出しな!」
というやり方で進めることができます。

彼は経験と勘で、シンプルな住宅を短期間で建てられるわけです。

しかし、丸の内にそびえ立つ高層ビルを建てるとなると、話はまったく違います。

・プロジェクトファイナンス(資金調達)
・市場調査(需要や収益性の確認)
・設計(用途に応じた計画)
・部材調達(資材の確保)
・施工管理(スケジュール・品質管理)

これらを専門のチームに分け、全体をゼネコンが統括するという流れになります。

つまり、
「大工の腕一本でやる」
のではなく、
「組織的なマネジメント」
が必要になるわけです。

ところが、相談者のクライアント企業は、
「適当な一軒家も建てられない状態で、ゼネコン級のプロジェクトを依頼している」
という状況に見えます。

つまり、
・企業のビジョンが定まっていない
・戦略補正力が弱い
・アイデアを実行するための収穫ポイントが見えていない
この状態で、
「ゼネコンのような包括的な戦略コンサルティングをやってほしい」
と言われても、何をどう進めるべきかが曖昧なままです。

「面倒くせえばあ! バッカじゃねえの? んなの、カンナとトンカチでチョチョイのチョイでやりゃいいじゃん!」
という感覚が抜けずにプロジェクトを進めると、途中で必ず破綻します。

そして、ありがちなパターンとして、企業側はまずコンサルに

1 事業環境の情報提供
2 ブレストやディスカッションパートナー

を依頼し、そこから

3 戦略立案

を作らせ、最後は社内の素人に実行させてみて失敗。

結果、
「やっぱりプロに頼むしかない」
となり、

4 戦略実施を依頼するか、あるいはプロジェクトそのものを諦める。

この流れを見越して、コンサルタント側も最初から
「1〜4の各フェーズを切り分けて受注する」
というやり方を考えてもいいでしょう。

そうしないと、結局は
「ちゃぶ台返し」
のリスクが高まるばかりです。

なぜなら、ビジョンが不安定なままプロジェクトを進めると、企業は途中で不安になり、方向転換を繰り返してしまうからです。

まずは
「家を建てる」
基礎を固めるところから始めること。

それが、相談者のコンサルティングにおける最初の役割なのかもしれません。

著:畑中鐵丸