会社を経営する上で、
「人材の育成」
と
「組織の運営」
は避けて通れない課題です。
特に、事業責任者となる人材を社内で育成するか、それとも外部の優秀な人材に任せるかは、経営方針によって大きく変わります。
ある会社では、
「時間がかかっても、すべての事業責任者は社内で育成する」
という方針を掲げ、たとえ未熟でも、まずは「社長(仮)」としてコックピットに座らせ、操縦桿を握らせるという決断をしました。
しかし、その結果、会社がどのような状況に陥るのか、現実的な懸念もあります。
1 事業責任者が担うべき業務とは?
事業責任者として最低限必要な業務は、大きく分けて2つあります。
(1)ルーティン・オペレーション
・ヒト・モノ・カネ・ノウハウの管理
・売上予算や行動計画の策定・承認
・各スタッフへの行動目標設定と進捗フォロー
・組織の監視・監督・助言
・異常事態の発見と対処
(2)事業の高度化・効率化、新規取組の推進
・事業環境の認識と分析
・未来のビジョン設計(ゴールデザイン)
・資源調達(予算・人員・内製or外注)の検討
・費用対効果の検証と意思決定
・実施と試行錯誤を繰り返し、最適解を見つける
・結果に応じた評価・報酬調整
こうした業務を、
「社長(仮)」
に求めることになります。
しかし、それがまともに機能していない場合、
「時間がかかる」
どころか、
「いつまで経っても形にならない」
という事態に陥るでしょう。
2 放牧状態の事業ユニット
各事業ユニットが放牧状態であるとするならば、事業責任者としての役割を果たせる人材が育っているとは言い難い状況です。
例えば、次のようなタイプの人材が事業責任者になった場合、本当に会社を運営できるのかという問題があります。
・タイプA:「何もしてこなかった」+「新しい体制を妨害する元部長」
・タイプB:「他所で食い詰めて、仕方なくこの業界、この会社に流れ着いた中途社員」
・タイプC:「知識・経験不足で、処遇にも不満を持ちながらも、受け身で従い続ける若手・新卒」
彼らに事業を任せた場合、本当に大丈夫なのでしょうか?
そもそも、
(1)事業責任者としての仕事を独力で遂行できるような人材が、社内から誕生するのか?
(2)万が一、そんな能力を獲得した人材が出てきたとして、その人が会社に忠誠を誓うのか? 悪さをしたり、出て行ったりしないか?
といった懸念が生じます。
3 「社長(仮)」の監視と管理
「社長(仮)」
にコックピットを任せるという方針は、育成の観点からは正しいのかもしれません。
しかし、それだけでは会社が正しく運営される保証にはなりません。
もし、事業責任者が業務を適切に遂行できなかった場合、後部座席から激しく指摘を入れなければなりません。
「お前、運転下手だな。何やってんだ! ほら、はよ行け! ……バカ、そこは止まれよ! てめえ、免許持ってんのか? 何ワイパー動かしてんだ! ウィンカーは逆! ほら、エンストだ! うわ、酔いそう。ガシャン! 何? ブツケた? もうダメだな。代行呼ぶよ!」
このように、適切な監視と管理がなければ、事業責任者が好き勝手に暴走し、会社全体が崩壊するリスクもあるのです。
4 育成か即戦力か?
「社内でじっくり育てる」
という方針は、決して間違いではありません。
しかし、育てる環境が整っておらず、適切な管理体制もないままに責任だけを与えると、組織は機能しなくなります。
したがって、
「社長(仮)」
に任せるなら、
「育成」+「監視」
をセットにする必要があります。
もしくは、
「『育成』にこだわらず、最初から優秀な人材を外部から確保する」
という選択肢も考えるべきでしょう。
どちらが正解なのかは、会社の文化や経営理念によります。
しかし、どの道を選ぶにしても、
「放任しすぎるリスク」
だけは避けるべきです。
著:畑中鐵丸