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本コンテンツシリーズは、アジア経営者連合会「ALA経営塾」主催にて、令和3(2021)年3月25日(木)17時30分開始にて行われました、弁護士畑中鐵丸の講演「組織と個人の用心棒、顧問弁護士の使い倒し方・ベンチャー企業経営者特有の失敗の傾向と対策~ベンチャー企業経営者なら皆さん身に覚えがあるビジネスやプライベイトの失敗事例と対策のための”あの手・この手・奥の手”を25年超のキャリアをもつベンチャー弁護士が直接伝授します~」の講演レジュメ及び講演録から編集したものです。なお、本講演内容は、筆者(講師)独自の見解であり、所属組織及びアジア経営者連合会ないしALA経営塾のものとは一切関係ありません。
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1、令和の時代、コロナの時代の「変化」の特徴
令和の時代・コロナの時代では、世の中が変わった。
「想像を絶する、誰もついていけない変化」ではなく、「来たるべきものとして想定されていた合理的でありうべき変化が、予定より早く訪れ、強い圧力で強制される」というタイプの変化。
2、経営スタイルの選択が強制される
企業経営の観点で言うと、経営スタイルの選択が求められるようになった。
「パワープレー(規模を武器にした経営)」か
「スマートプレー(効率性や機動性を武器にした経営)」か
を選択しなければならず、
「どちらとも言えない中途半端なプレースタイル(規模も中途半端なら、効率性や機動性も中途半端)」の企業や組織は、全て淘汰される。
実際、中途半端な規模で、やっていることもオンラインやデジタルを使わない、昔ながらのスタイルで、たいして価値のない商品やサービスしか提供出来ていない、いわば、「あってもなくても会社」「別になかったからといって困らない業態」の企業は、ことごとく淘汰されるか、苦境に喘ぎ、淘汰される状況にまで追い込まれている。
3、選択肢その1:パワープレー
大きな資源(ヒト、モノ、カネ、情報、セールスインフラ等)を用いる。
売上は大きいが、もうけは少ない。
大乗仏教的志向・メジャー志向であり、M&Aを積極的に行い、「スケールの大きさ」によって市場や
社会でのプレゼンスを大きくする。
組織の永続性が何より優先される。
すべてが組織のためであり、組織が何より優先される。
組織における秩序こそが最優先であり、組織防衛のため、法律や外部規範をないがしろにする。
客より、社会より、従業員より、組織の存続が最優先である。
客を犠牲にして、客を食い物にしてでも、組織を存続させる。
こういうパワープレーの企業は、景気がいいときは、「組織防衛優先、客や市場や従業員は軽視・無視」「組織維持存続最優先で、客や従業員は後回し」という矛盾が露呈することなく、市場に受け入れられ、根源的な利害対立構造もお茶をにごしつつ、なんとかやっていける。
ところが、苦境に陥ると、なりふり構ってられない。そして、構造が明確になり、矛盾が露呈し、あちこちで混乱が生じやすくなる。
もちろん、規模が大きいために「こんなでかい会社なら潰れないだろう」という妙な安心感(楽観バイアス)が働く成果、規模が大きいだけに、潰れると社会的影響が大きいせいか、銀行も資金調達に協力してくれる。
しかし、客の都合より自分の都合を優先してしまう体質があるため、あるいは、経営幹部が「天動説的な自己中心・組織中心の発想」から抜けきれず、敏感な客のニーズの変化や商売の環境変化に機敏に対応出来ず、後手後手となる。すなわち、安易な値上げ、安易な首切りに基づく士気低下とサービス悪化、その結果による、客離れによる負の循環を起こしてしまい、さらなる苦境に陥る。
規模が災いして、売上が減るほどにコストが減らず、一気に、凄まじい額の赤字に傾く。
従業員に対しても、手厚い対応をしていると組織の存続に関わるので、すぐさまリストラに着手する。
パワープレーは、「信用によるレバレジで資源を膨らませると同時にリスクを大きくする」という「信用売買の株式投資」のようなものであり、景気がよく、あるいは思惑どおりの場合はいいが、新型コロナウィルス感染拡大といった想定外の負の事象が発生すると、規模の大きさが災いし、全てが裏目に出て、苦境にあえぐ結果になる。
とはいえ、規模があると、規模による安心感が得られ、また、資金調達も(中小零細の場合に比べると)比較的容易なせいか、すぐにはつぶれないが、構造的には奈落の底に向かって下り坂を転げ落ちる。
4、選択肢その2:スマートプレー
スピード、スモール、スマート、ソフィスティケイテッドといった価値観を優先し、スケールは追求しない。というより、スケールはコスト上昇を招く、諸悪の根源と考える。
スケールが必要なら、組織拡大ではなく、AIやRPAやDXやアウトソース、さらには、事業の再定義を行って、「組織や資源のスケールアップ」を伴わない事業拡大を目論む。
小乗仏教的志向、インディーズ志向であり、メディア戦略やネット戦略を積極的に行い、「影響力の大きさ(フォロワー数)」によって、市場や社会でのプレゼンスを大きくする。
チームメンバー(といっても経営幹部)個人の都合が最優先され、組織は、単なる道具であり手段。
「個人のため、個人として、個人がやって楽しいか」が活動の最優先課題。
全て個人の感受性が優先される。
組織は二の次であり、客の動向を気にするし、また、客に目を配るだけの余裕や冗長性があるため、組織の存続以前に、客への還元、客との対話、客との良好なリレーションを重視する。
規模がないため、この点で脆弱性は否めないが、身軽で手軽なため、コストダウンへの耐性もあり、危機に見舞われてもしぶとく生き残れる。
もともと、市場や客との対話を重視し、市場や客の動向を気にするような、地動説的知性があるため、変化の萌芽を敏感に察知し、柔軟に環境に適応出来る。
総じて、自己資本が厚く、不況への抵抗力が強く、生き残ることが出来る。
5、パワープレーVSスマートプレー
パワープレーを志向する企業は、いわゆる、重厚長大と呼称される典型的な日本企業のイメージである。
数万人、企業によっては数十万人という人員を抱えた、国家に匹敵する膨大な資源を背景に企業活動を展開する組織がこれに該当する。
スマートプレーを志向する企業は、具体的には、アップル、ファーストリテイリング、任天堂、キーエンスといった企業である(これら企業も十分大きいですが、志向としてはスマートプレーヤー)。
これらのスマートプレーヤーは、「ファブレス」というキーワードでくくれる。
ファブレスとは、工場(fabあるいはfabrication facility)を持たない(less)ことから生まれた造語ですが、「工場を持たない」経営スタイルを指す。
「製造業を営みながら、製造のための施設を自社では保有しない経営上の方法論」を「ファブレス経営」と呼んだりします。
行うのは、製品に関する企画や開発だけ。
企画や開発が終了し、量産フェーズに入ったら、商品の製造については外部の向上に委託しますが、このような仕組みで活動する企業は「ファブレス企業(またはファンドリ)」と呼ばれる。
もちろん、上記のような巨大なスマートプレーヤーもいますが、他にも、「オーケストラ型」ではなく、「ロックバンド」のような、余剰人員や不要機能を削ぎ落とした少数精鋭ながら巨大な影響力を志向するベンチャー企業もたくさん存在する。
7、経営者の「パワープレー」信仰(バイアス)
言うまでもなく、価値序列としては、今後、「スマートプレー」がどんどん価値を増す。
他方で、「経営者一般」特に「昭和や平成の感覚が抜けきらない、古い思考の経営者」は、スマートプレーを忌避、嫌悪し、パワープレーを強く志向する思考偏向(バイアス)に汚染されやすい。
これは、「スマートプレー」にまつわるネガティブなイメージがあるから。
すなわち、「経営者一般」特に「昭和や平成の感覚が抜けきらない、古い思考の経営者」にとっては、
「スマートプレー」=「中小零細志向、閉塞感、縮小均衡、無名感、忘れ去られる、埋没する、ジリ貧、未来がない」
というネガティブな連想が働き、芳しからざる印象がある。
故に、「経営者一般」特に「昭和や平成の感覚が抜けきらない、古い思考の経営者」は、すべからく、パワープレー志向(偏向)・メジャー志向(偏向)に陥りがち。
8、パワープレーを志向した挙げ句、結局中途半端になって、失敗するパターン
パワープレー志向(偏向)・メジャー志向(偏向)が好況期には問題が露呈しないが、不況期になると途端に脆弱性を露呈することは、既述のとおり。
加えて、パワープレー志向(偏向)・メジャー志向(偏向)の致命的欠点は、パワープレー志向(偏向)・メジャー志向(偏向)の場合、常にトップシェア(一番手)のみが市場で認知されるが、二番手以下に転落すると、市場での認知が急速に低下することが知られている。
そのため、一度、パワープレー志向(偏向)・メジャー志向(偏向)のゲームに参戦すると、際限なき資源消耗・体力勝負によるトップシェア獲得競争を強いられるが、中途半端な規模で参戦しても、資源が追いつかず、永遠に二番手以下となり、好況期であっても、さほどのベネフィットが得られるわけではない。
結局、中途半端のままで、最終的には、資源不足のため、破綻してしまう運命にある。
9、「スマートプレー=中小零細志向、閉塞感、縮小均衡、無名感、忘れ去られる、埋没する、ジリ貧、未来がない」のか?
「経営者一般」特に「昭和や平成の感覚が抜けきらない、古い思考の経営者」の思考の偏向的習性とは違い、現実には、
「スマートプレー」≠「中小零細志向、閉塞感、縮小均衡、無名感、忘れ去られる、埋没する、ジリ貧、未来がない」
という公式が成り立つ。
さらに言えば、
「スモールでスマートだが、プレゼンス(存在感)としてはメジャー級」
という秩序破壊型プレースタイルが登場したのが令和・コロナの時代。
キーワードとしは、IT、DX、ネット、youtube、インスタ、フォロワー、SNS、検索順位、露出。
ネット空間やSNSにおいて、中小零細が突如として大企業に匹敵する影響力を持つことが可能となり、ビジネスにおけるリモートやオンラインの一般化が拍車をかける。
ただ、誰でも、「スモールでスマートだが、メジャー」という秩序破壊型プレースタイルを駆使できるわけではない。
知性とセンスと進取の気性が求められるし、昭和や平成の残滓が堆積する古い頭の経営者にとっては、難しいし、思考転換できない(スキルがないし、知性もないし、センスもない)。
結局、昭和や平成の思考や感受性の残滓が堆積する古い頭の経営者は、「知性とセンスと進取の気性が求められるスマートプレー」をギブアップし、昔ながらのメジャー志向を選択してしまう(こっちの方が、楽で、わかりやすく、バカでも出来るから)。
そして、結局、体力勝負・消耗戦に陥り、資源が続かず、中途半端のまま経営破綻を迎える。
10、推奨されるべきスタイル:「パワープレー」志向(偏向)を捨て去り、「スマートプレー」を研究し、実践する
そのために、思考の柔軟性・開放性、新規探索性、過去の成功例の放棄を行い、新しいゲーム環境に慣れていくことを、一刻も早く行う。
著:畑中鐵丸