00184_契約書有効性と信頼性を保障するための対応策

001810018200183について、補足します。

日本の民法においては、意思主義、すなわち、特段の文書や形式なく、相互の意思表示が合致すれば、それで法的に有効な契約が成立します。

じゃあ、
「契約書は何なんだ?」
という話になると、意思表示が合致した痕跡を証拠として残し、後日の紛争に備える、自主的な危機管理手段であり、任意のもの、という扱いです。

したがって、証拠の形式に特段の制約がなく、合理的経験則に照らして、当人の意思が反映された痕跡であれば、裁判になっても相応の耐性を獲得する、と考えられます。

「電子メールは法的に有効な証拠か?」
ということを、大真面目に議論しているサイト等がありますが、
「メールが改ざんされた」
との例外的な状況ではない限り、意思内容を立証する有効な証拠としては、十分認められることは疑いありません(ただ、取引の規模に照らして、表現や電子メールという体裁自体が異常なまでにカジュアルである、と裁判官が判断すると、意思が明確に反映されていない、とされることはあり得ますが)。

さて、本件(001810018200183)ですが、

本人確認していなくて、偽造(「本人の許可なく押印した」の意味)の可能性も否定できませんが、弁護士法の点ではやや微妙なビヘイビアとはいえ、一応、国から営業許認可をもらった不動産会社が借主と貸主の間にたって実務を担当していますし、彼らが、偽造をして、刑事罰に問われたり、許認可を剥奪されるようなことをあえてする動機に乏しい、ということもありますので、まあ、全く信用できないわけではなく、意思内容を示す痕跡としては、相応に取扱ができるレベルと考えられます。

また、表示された意思内容も、巨額の、異常な取引、というよりも、常識的で妥当で合理的な処理を明確にした文書であり、その点からしても、目くじらたてて、実印だ印鑑証明だ、とわめきたてる強度の必要性もなかったので、記名押印でよしとした、というスタンスもありかと存じます。

どうしても心配であれば、
「契約解除」
もあり得るかと思いますが、
「取るべきリスクと割くべき時間とエネルギーとのバランスを考えると、どうか」
というところでしょうか。

まあ、現実的な打開策としては、

1)立会人として、不動産会社の代表者に署名させる

2)さらに、賃貸人の記名押印の下部に、不動産会社から
「本件記名押印が、本人の意思を反映していることを表明し、保証する 不動産会社<印>」
と一文・名前・ハンコをもらう

のいずれかで対応して差し支えないような気がします。

旧賃貸人が入院中ということは、解除契約自体も微妙な感じになりますので、いずれにせよ、問題の根本は変わらないような気がします。

だとすれば、旧賃貸人の意思が明確にならないリスクを、保証人ないし不動産会社ないし双方に転嫁する方法が現実的でしょう。

著:畑中鐵丸