00189_ケーススタディ_中学受験を目前に、親が心がけるべき「平静心」のマインドセット

<事例/質問>

中学受験まであと2カ月弱です。
家の中はピリピリしております。
親として、どのように過ごしたらよいでしょう。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

中学受験が目前に迫り、家の中がピリピリとした雰囲気に包まれるのは自然なことです。

ですが、こうした時期にこそ親が冷静なマインドセットを保つことで、子どもが受験当日に最高の力を発揮できる環境が整います。

以下の心構えを念頭に置いて、親としてどう振る舞うべきかを考えてみましょう。

1 合格は「目標」ではなく「結果」

受験生が目指すべきは
「合格」
という結果を手に入れることではありません。

受験生がするべきことは、これまで準備してきたことを出し切り、最高のパフォーマンスをすることです。

なぜなら、合否を決めるのは学校であり、受験生が全力を尽くしても、結果を変えることはできません。

「合格しなければ」
と捉えてしまうと、
「自分では制御できない課題に苦悶する」
ことになり、過度のプレッシャーから、ミスをしやすくなります。

親としては
「受験するのは親ではなく、子ども自身」
であることを認識し、合否にこだわるのではなく、子どもが準備を出し切れるようにサポートすることが大切です。

2 想定外の番狂わせに備える

受験当日は、緊張や不安から
「番狂わせ」
と呼ばれる予想外の出来事が起こりやすくなります。

初めての環境や状況の中では、心理的な動揺がプラスマイナス10〜20%のパフォーマンス差につながることもあります。

これは、学校の成績や企業の業績、株価の上下にさえも通じる話です。

実力があっても
「センチメント(気持ち)」
によって成績が2割変わるということが、どんな重要な場面でも起こり得るのです。

本番でパフォーマンスを落とさないためには、心理的なマネジメントが欠かせません。

正しい状況予測、フラットな自己認知、リスク抽出、そして制御のリハーサルといった事前準備が、子どもの実力を引き出す助けになります。

3 思い上がりを避ける

「思い上がり」
は、必要な不安感を鈍らせ、
「危険予知」
をおろそかにしてしまいます。

気持ちに余裕を持ち、明るく過ごすことが大切ですが、かといって
「合格は当然」
などと調子に乗ると、逆に失敗のもとになります。

そこで
「ヘッジ戦略」
として、心の中に保険をかけておくことが有効です。

例えば、
「行けなくてもいいさ」
「これで人生が決まるわけじゃない」
「もし行けたらラッキー」
「ダメならダメで、次、大学入試ではリベンジすればいい」
といった保険の気持ちを持つことで、片方の結果に偏らず、どちらに転んでも大丈夫と思えるようになります。

この心の保険をかけておけば、実際に合格しても保険が無駄になるだけで、損することはありません。

そうやって、心に余裕を持つことが
「正しいマインドセット」
なのです。

4「練習は本番のように、本番は練習のように」

これは、心理制御の基本とも言える考え方です。

練習中はできるだけ本番を意識して取り組み、本番では練習のように自然体で臨むことが、パフォーマンスを安定させる秘訣です。

5.「夢もなくおそれもなく」

この言葉は、ルネサンス期に活躍した女傑、マントヴァ侯爵夫人イザベッラ・デステの書斎に掲げられていたモットーです。

彼女は政治的にも知的にも卓越した手腕を持ち、ルネサンス期の欧州ファッションのリーダーでありながら、国家が危機に陥った時には冷静沈着に行動し、小国を守り抜いた人物でした。

彼女は、夫が敵国に捕虜となっても、周囲の批判や侮辱に負けず、自分のペースで状況を打開する最善のタイミングをじっくり待ち続けました。

イザベッラが守り抜いたのは、外的な圧力に屈するのではなく、自分の役割を淡々と全うすることだったのです。

このモットーは
「勝って驕らず、負けて腐らず」
「失意泰然、得意淡然」
と同様、心を平静に保つ大切さを教えてくれます。

受験生も、親も、不安や高揚感に心を乱されることなく、平静心を持って
「できることに注力する」
ことが最も重要なのです。

受験生が集中すべきは
「合格」
への執着ではなく、当日に最高のパフォーマンスを発揮することです。

親もまた、
「自分ができること」
に目を向け、子どもが穏やかに受験に臨める環境を整えることが役割です。

結果について過度に気を揉むのではなく、淡々と日々のプロセスを積み重ねていくことが、子どもにとっても親にとっても受験を乗り切る最良の支えとなるのです。

著:畑中鐵丸