メールは日常業務の中でとても便利なツールです。
しかし、これは一見
「早くて、手軽で、証拠にもなる」
という利点を備えていながら、微妙なニュアンスや空気感までは伝わらないという限界も抱えています。
たとえば、電子メールはレシピ本のようなものです。
料理の手順や材料は細かく書かれていますが、実際にどんな味になるか、香りや食感などは作ってみるまでわかりません。
同様に、メールの文章が示す
「意思」
は相手に伝わるものの、それが
「どういう意図か」
「どんな感情を持っているか」
といった細かなニュアンスまでは伝えきれないのです。
直接会ったり、声を聞いたりしてこそ感じ取れる
「その場の空気感」
は、メールではどうしても伝わりにくくなります。
逆に、意図的に
「伝えすぎたくない」
ときにはメールが有効な手段です。
たとえば、少し曖昧にしておきたい情報や、言い過ぎると後から困る内容を控えめに伝えるには、メールが適しています。
直接の会話であれば、思わずポロっと本音が漏れてしまうこともありますが、メールであれば文を推敲しながら書けるため、伝えすぎを防ぐことができるからです。
また、メールは
「証拠として残す」
ためにも非常に有用です。
ある取引先と交渉する際、口頭でのやり取りは記録に残りませんが、メールで
「先日お話しした件については、〇〇の方針で進めます」
と一文残しておけば、後から
「当時はそういう合意だった」
という証拠になります。
こうした記録は、いざというときに自分を守るために非常に役立ちます。
ただし、どうしてもメールに馴染まない情報というものもあります。
たとえば、複雑なニュアンスを持つ依頼や、相手がどう受け取るか気になるデリケートな話題では、電話や面談が適しています。
これらは、メールという
「簡便さ」
はないものの、相手の表情や声の調子から、伝えたいことを調整しやすいからです。
メールは
「証拠や形を残したいときの武器」、
一方で、直接の対話は
「行間や空気感を伝えたいときの武器」
として、それぞれをうまく使い分けることが大切です。
著:畑中鐵丸