00205_「お金の問題ではない」—弁護士が仕事を断る理由—「誠意」と「敬意」がビジネスを決める

弁護士という仕事をしていると、さまざまな人と関わることになります。

法律相談だけでなく、ビジネスの戦略に関するアドバイスや契約書のレビューなど、多岐にわたる依頼が寄せられます。

しかし、すべての案件を引き受けられるわけではありません。

なぜなら、
「どの案件を優先すべきか」
は、単なる時間管理の問題ではなく、
「誰と付き合うべきか」
の問題だからです。

今回は、実例をもとに、
「弁護士が仕事を断る理由」

「お金の本当の意味」
について考えてみたいと思います。

最初は「費用後回し」でも付き合ったが・・・

ある案件で、私は
「基本的な立て付けがしっかりしている」
という前提のもと、
「法的局面に関するアドバイス」
に限定して、依頼を受けました。

切迫ということだったので、費用についても、まずは後回しにして、関わることにしたのです。

しかし、途中で前提が大きく揺らぎ、単なる法的アドバイスでは済まなくなりました。

つまり、依頼者が当初想定していた
「できあがった設計図をもとに、法的な補強をする」
という立場ではなく、
「そもそもの設計図を一緒に作り直す」
ところから関与する必要が出てきたのです。

ここまで範囲が変わると、必要な時間もスキルも増えます。

当然、それに見合う適切なコストをいただかなければ、こちらもエンゲージし続けることはできません。

「報・連・相」なし、「見込み違い」の総括なし

問題だったのは、
「報・連・相」
が一切なかったことです。

前回の打ち合わせの仕切りが想定と大幅に違っていたにもかかわらず、その点についての説明はありません。

「見込み違いでした」
「想定が狂いました」
といった総括もなく、ただ次の依頼が飛んできました。

私が休日に呼び出され、費用を頂戴する前提で作成した法的文書が、前提変更により無駄になったこともありました。

しかし、それに対するお詫びもなく、費用精算の申し出もありません。

せめて
「申し訳ありません」
「お手数をおかけしました」
という一言があれば、こちらの気持ちも違ったかもしれません。

突然のレビュー依頼、しかも「急いで」

そんな状況のなか、急に、また、
「レビューをお願いします。急ぎです」
と連絡が来ました。

前提が崩れたまま整理されていない状態で、また同じようなことを繰り返すつもりなのか・・・と思ったのが正直なところです。

それでも、着手し、同時に費用提案をしました。

すると、返ってきたのは
「値引きできませんか?」
という回答です。

もはや、この案件に関わるべき理由が見つかりませんでした。

「お金」は人間性を映す指標

最終的には、依頼者から
「申し訳ありませんでした」
という謝罪とともに、費用の請求をお願いする旨の連絡がありました。

しかし、私は
「費用は結構です」
とお断りしました。

なぜか?

私にとって、お金は単なる対価ではなく、
「どの程度、自分が評価されているか」
「軽んじられているか」
を測る指標だからです。

その意味で、このやりとりを通じて、十分に評価を認識しました。

つまり、
「ああ、この方とは今後、お付き合いしないほうがいいな」
と確信できたのです。

お金の問題ではない——付き合うべき相手を見極める

誤解しないでいただきたいのは、
「お金が欲しくて仕事をしているわけではない」
ということです。

もちろん、プロとしてのサービスには適切な報酬をいただきます。

しかし、それ以上に大切なのは、
「常識的で、誠実で、敬意をもって接してくれる人と仕事をすること」
です。

ビジネスにおいて、ミスはつきものです。

計画が狂うこともありますし、想定が外れることもあります。

重要なのは、そのときに
「どのような態度をとるか」
です。

・自分のミスを認め、相手に対して誠意をもって接するのか
・うやむやにして、ごまかしながら先へ進めようとするのか

たったこれだけの違いで、仕事のしやすさは大きく変わります。

最後に

弁護士として、さまざまな案件に関わるなかで、
「この人と一緒に仕事をしたい」
と思えるかどうかは、非常に重要なポイントです。

どれだけ大きな案件であっても、相手が誠意を欠いた対応をするのであれば、関わる価値はありません。

逆に、たとえ小さな案件でも、誠実で信頼できる方であれば、全力でお手伝いしたいと思うものです。

お金の問題ではありません。

誰と付き合うかの問題です。

ビジネスをするうえで、この視点を持っておくことは、とても大切なことだと思います。

著:畑中鐵丸