日常用語で相談というと、悩みがあったり、混乱してわからないことが発生した場合、親や先生に丹念に話を聞いてもらいつつ、解決案を出してもらう、というのが一般です。
しかしながら、ビジネスの
「ホウレンソウ」
における
「相談」
というのは、
「夏休み子ども相談室」
の相談のように
「小学生の抱えた悩みをやさしく解決してくれる」
という穏やかなものではありません。
仕事に関して相談する相手は、たいてい上司です。
上司は、先生や親と違って、殺人的に忙しく、時間がありません。
そんな上司に、部下が
「混乱して、問題点が特定できない悩み」
を持ち込んで、上司という
「時給単価の高い、組織において貴重極まりない人的資源」
を長時間費消するのは、組織運営の妨害行為としか認識されません。
そんな
「アホな悩み」
を上司に持ち込む部下は、可愛がられるどころか、
「要領を得ないヤツ」
というレッテルが貼られ、次の異動で別の部署に飛ばされることになります。
こういう意味において、
「相談」
の本質・仕組みや、マナー・エチケットを知っておくのは非常に重要です。
ここで、相談の本質・仕組みですが、
「仕事において上司に相談する」
というのは、仕事を進める上での各進捗プロセス、すなわち
1 状況の認識・整理(未確定の状況があれば、その特定を含む)
2 問題点や課題の抽出
3 解決方法(戦略レベル)の特定と具体化(複数の解決策がある場合は、解決方法の選択肢の抽出と功利分析も含む)
4 複数の解決方法を立体的に展開する場合にはその整序(段取り)
5 解決方法を実行する上で実施上の課題(戦術レベル)の想定・シミュレートやブレイクスルー方法
という各段階の作業を行う上で、
「状況認識やスキームが相場観に整合しているか」
「全体として計画に現実性があるか」
「その他経験値の乏しさによる誤解から生じるモレ、ヌケがないか」
という補完的な検証を経験値の高い上司に依頼する、という行為を指します。
すなわち、仕事の場における
「相談」
は、
「上司の経験値による補完的検証作業」
ということですので、
「自分でできる範囲のことはギリギリのところまで自分の責任で進め、最後の詰めを依頼する」
というのが本来の姿といえます。
こういう相談の本質・仕組みをわきまえず、
「状況がよくわかっていないせいか、何だかうまく行きません。何が問題かわからないことが、問題なのです。ボクはどうしたらいいんでしょう」
といった類の、会社の上司を母親や小学校の先生と勘違いした相談は、仕事のマナー・エチケットに反した非常識な行動と認識されます。
とはいえ、
「デキもしないのに仕事を引き受けてしまい、上司に相談しようにも相談の前提を整えることができず、遠慮して相談を忌避し、その結果、1つも進捗させることができないまま、長時間徒過させてしまった」
というのも会社や組織に害を与えます。
ですので、
「手に負えない。こりゃダメだ」
と思ったら、黙っていないで、すぐに上司とのコミュニケーションを取るべきですが、ここでの上司とのコミュニケーションは
「相談」
ではなく、
「自分がアホであり、仕事が進められない」
という事実の
「報告」
になります。
この報告を受けた上司は、当然、叱責したり厭味をいったり舌打ちしたりしますが、そういう態度を取りながらも、
「これはこうやるんだ」
といって、目の前で1ないし5のプロセスを披瀝してくれるはずです。
その際の部下の行動ですが、ボーっと突っ立っていると上司の心証を害します。
部下としては、次回から自分の頭脳で1ないし5のプロセスを完遂できるようにすべく、メモを取って、上司の仕事の捌き方を克明に記録するのが礼儀です。
(つづく)
著:畑中鐵丸
初出:『筆鋒鋭利』No.041、「ポリスマガジン」誌、2011年1月号(2010年12月20日発売)