離婚率はものすごい勢いで増えているようです。
2016年の婚姻件数は62万1000件で離婚件数は21万7000件、とのことですので、単純に考えると、離婚率3割となっています。
私の周りや、そのお子様等でも、びっくりするくらい、ポンポン離婚が発生しており、離婚はもはや、
「結婚に不可避的に付随する陳腐なイベント」
のような感じになっています。
これから結婚を迎える世代は、「5割の確率で離婚はありうる」という前提で、人生設計、家族設計等をする時代になるかもしれません。
私がまだ小さいころ、といっても30年から40年前くらいですが、このころは、まだ離婚というものが社会的に認知されておらず、離婚は「事件」であり、芸能人や著名人が離婚するだけで相当なニュースになりました。
ところが、令和の時代となった現在に至ると、事態は一変します。
芸能界ではすでに離婚は日常茶飯事となり、離婚せずに円満に結婚生活を続けている芸能人の方が珍しい存在としてメディアで取り上げられる有様です。
世間一般でも、離婚は珍しい出来事でなくなりましたし、テレビでは、離婚問題の対処法を扱ったクイズやバラエティ番組が盛んに放送されるようになっています。
私は、男女問題や離婚に関する法律実務にはそれなりに通じておりますが、しっかりとした認識と方針をもち、経済的な関係基盤を含めた盤石な信頼関係が構築できない限り、 依頼をすべてお断りをしており、業務として離婚を扱うことは、かなり少数です。
さらに言えば、離婚事件を積極的に扱いたいか、扱いたくないか、と問われると、どちらかというと後者が答えになります。
その理由は、「法は家庭に入らず」というローマ時代からの格言を重んじ、「弁護士も無闇に家庭に入らない」という業務上の方針をもっていることが一つにあります。
もう一つの理由は、無責任な内容を垂れ流すテレビ番組に汚染されているせいか、依頼者一般があまりにも無知で、法的状況や過酷な現実を理解することなく、離婚に対して「妄想」ともいうべき異常に高い期待を有しており、「啓蒙のため多大な時間を要するため、相当な信頼関係と相応の費用を前提としないと受任できない」という現実的理由によるものです。
そこで、今回から「離婚にまつわる都市伝説」と題し、「無責任な内容を垂れ流すテレビ番組に汚染された、無知な一般の方」を啓蒙する目的で、いくつかの都市伝説を検証する形で、離婚に関する法的知識を述べていきたいと思います。
◆離婚にまつわる都市伝説1~離婚すれば必ず幸せになれる?!~
おそらく、離婚を検討する人の多くは、このように考えられる方が多いです。
しかしながら、現実には、離婚の結果として確実なのは、経済的困窮の度が増すことだけであり、むしろ離婚前より不幸になる可能性が高いといえます。
離婚という現象を単純化すれば、それまで一個の経済単位であった家計を二分割するわけですから、社会経済的には明らかなマイナスが生じます。すなわち、それまで一つで足りていたマンションや、冷蔵庫や、電子レンジや、電話・・・と、何から何まで二つ必要になるわけですから、余計な経済上の負担が生じることは明白です。
経済的困窮は双方にふりかかりますが、一般的には、男性より女性の方が、仕事をもっている人間より仕事をしていない人間の方が、離婚を起因とした経済的困窮が激しく襲いかかります。すなわち、サラリーマンの方と専業主婦の方がご構成される夫婦が離婚した場合、専業主婦の方にふりかかる経済的困窮の度合は厳しく、不幸度が増すことは明らかです。
こういうことをいうと、「慰藉料とか養育費とかいっぱいもらえるから大丈夫」とかいう声が聞こえてきそうです。しかしながら、次回以降述べるように「慰藉料とか養育費とかいっぱいもらえるから大丈夫」というのも一種の都市伝説であり、離婚後も専業主婦としてのんびりやっていけるのは、離婚する夫によほどの理解と財産がある場合に限定されます。
「目ぼしい財産をもたない者同士が夫婦となり、所得が少なく、ケンカが絶えず、家庭内の状況が悪化し、離婚に至った」などというケースでは、妻が「夫からカネを取ってやる」と息巻いたところで、その「カネ」自体がないわけですから、カネは手にできません。
こういうケースで離婚しても、妻の側にはさらなる貧乏が待っているだけであり、現状の不満を打開する手段として離婚を選択することは、より一層不幸な状況を招くだけといえます。
「カネがすべて」というわけではないですが、幸福度を計測する重要な指標として経済状況というものが厳に存在し、かつ、離婚をすれば経済的困窮の度合いが増すことが明らかな状況では、「離婚をすることにより絶対貧乏になる」ということは確実にいえたとしても、「離婚すれば幸せになる」とは言い難いところです。
「夫ないし妻から毎晩暴力を受けていて、お金や生活にこだわっていたら命が危ない」「すでに再婚する人が決まっているので、別れても、今の生活状態を維持できる」というケースは別として、「離婚すれば必ず幸せになれる」というのは都市伝説というほかありません。 次回以降も、離婚にまつわるいくつかの都市伝説を検証していきたいと思います。
(つづく)
著:畑中鐵丸
初出:『筆鋒鋭利』No.008、「ポリスマガジン」誌、2008年4月号(2008年4月20日発売)